世界各地における紛争や円安などの影響により、エネルギーや原材料価格が高騰し、物価上昇が続いています。また、今年の春闘では、平均賃上げ率は5.1%となり、1991年以来33年ぶりに5%を超える高水準になるなど、人材確保の観点からも賃金を引き上げる動きもみられています。
こうしたコスト上昇分や賃上げに対応するため、物やサービスの価格に反映させる「価格転嫁」が求められています。
この機会に賃金と物価の関係や価格転嫁について考えてみませんか。
STUDY
賃金と物価、循環のしくみ
物やサービスの価格は、主に人件費(私たちの賃金)、原材料費やエネルギー費(光熱費、燃料費)などで構成されており、コストが上がれば、物価は上昇していきます。
企業の視点では、コストが上がっているのに価格が上げられないと、経営が成り立たなくなります。
コストの上昇分を適切に価格に反映させることで、物価が上昇し、企業活動が活性化し、働く人全体の賃上げにつながる、これが「賃金と物価の好循環」です。
そしてこの好循環が私たちの地域や産業・経済の成長・発展につながっていくのです。
STUDY
日本と世界の賃金と物価
グラフは諸外国の賃金と物価の推移を比較したものです。
日本は長きにわたって、賃金も物価も上がらない状態が続きました。
一方で諸外国は、2000年と比べ、賃金が1.4倍~2倍に上昇。物価が1.4倍~1.8倍に上昇しており、日本が特殊な状況であることがわかります。
我が国において30年にわたり物価下落が継続するデフレは、日本の経済を疲弊させてきました。さらに、昨今の世界各地の紛争や円安などによるエネルギーや原材料価格の高騰は、私たちの生活や地域の経済に大きな影響を及ぼしています。
今こそ、デフレから完全脱却し、物価上昇を上回る賃上げによる「賃金と物価の好循環」を実現しなければなりません。
地域の経済と雇用を支えていただいている中小企業が持続的に賃上げを行うためには、原材料等の上昇分はもとより、賃上げの原資となる労務費を取引価格に反映することが不可欠です。
県では、経済団体や労働団体などと締結した「価格転嫁の円滑化に関する協定」に基づき官民労一体となって、適切な価格転嫁に向けた機運醸成やパートナーシップ構築宣言企業の拡大などに取り組んでいます。また、国に対しても、「賃金と物価の好循環」を実現し、子どもから高齢者まで誰もが安心して生活できるよう取り組みを強化することを求めてまいります。
皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。
福岡県では、中小企業が企業数の99.7%、全従業者数の約8割を占め、地域経済の担い手として大きく貢献しています。その中小企業の多くは今、エネルギー・原材料価格の高騰に加え、人手不足等に起因する労務費の上昇に苦しんでいます。
中小企業が付加価値を生み出すためには、コストを適切に価格に反映し、本来得るべき利益を確保する「価格転嫁」が不可欠です。日本企業の多くは、目先の自社の利益だけを追い求め、条件反射のようにコスト削減に走ってきました。このことが中小企業の価格転嫁を妨げ、日本経済全体の力を損なってきました。
私どもは持続的な成長のために、今こそ共存共栄の理念を掲げ、「良いものをそれにふさわしい適正価格で」との考えに転換する時です。商工会議所も、パートナーシップ構築宣言企業の登録拡大や専門家による取引適正化推進相談窓口により、適正価格での取引が企業社会の隅々にまで行き渡るよう努めてまいります。
今年の春季生活闘争では、33年ぶりの高水準の賃上げを実現しました。しかし、業種間や事業規模間では賃上げ水準にバラつきがあり、その一因に、労務費の価格転嫁が進まない点があります。価格転嫁を進めるためには、昨年政府が示した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に基づく行動を、あらゆる商取引において実現させなければなりません。また同時に消費者・生活者の立場として、商品の適切な価格変動(いわゆる値上げ)に理解を示すことも大切だと考えます。こうした課題に対し連合福岡としては、構成組織への周知、行政や経営者団体への要請、街頭での世論喚起などを実施しています。
賃上げを含む経済の好循環には、来年以降も賃上げを継続させることが不可欠であり、すべての働く仲間とその家族の安心・安定した生活の実現に向け、これからも公労使が連携した取り組みを進めていきます。
福岡県のこれまでの主な取り組み
「価格転嫁の円滑化に関する協定」の締結
令和5年2月27日、福岡県、国の地方支分部局、県内の経済団体、労働団体の13団体※により「価格転嫁の円滑化に関する協定」を締結しました。この協定は、参加団体が相互に連携・協力して、燃料費や原材料価格などコストの増加分を適切に価格に反映させる機運を醸成し、中小企業の稼ぐ力を高めることで、労働者の賃上げにもつなげ、成長と分配の好循環を促すことを目的としています。
※……福岡県/経済産業省 九州経済産業局/国土交通省 九州運輸局/厚生労働省 福岡労働局/福岡県商工会議所連合会/福岡県商工会連合会/福岡県中小企業団体中央会/福岡県経営者協会/福岡経済同友会/(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会/(一社)福岡県中小企業家同友会/(公社)福岡県トラック協会/日本労働組合総連合会福岡県連合会
「事業者向け価格交渉スキルアップセミナー」の開催
価格交渉の進め方や原価計算の方法等の価格交渉スキルアップを目的に「事業者向け価格交渉スキルアップセミナー」を県内23地域で開催しています。また、セミナーに参加できない事業者向けに、Web配信も実施しています。
「中小企業賃上げ応援専門家」の派遣
事業者が持続的な賃上げを行える環境整備に向け、取引適正化や価格転嫁を進めるための事業者ごとの課題に応じた専門家(中小企業診断士、税理士、弁護士等)の派遣事業を実施しています。
「パートナーシップ構築宣言」登録事業者への優遇措置
パートナーシップ構築宣言に登録している県内企業は、一部補助金で優遇措置を受けられます。
「価格転嫁及び賃上げに関するアンケート調査」の実施
県内企業における価格転嫁や賃上げの現状・課題、好事例を収集し、今後の施策展開等に活用するため、令和6年7~8月に県内企業を対象にアンケート調査を実施しました。
<お問い合わせ>
福岡県商工部中小企業振興課
TEL 092-643-3425
FAX 092-643-3427
Email tshinko@pref.fukuoka.lg.jp