新型コロナで無念の中止 九州国立博物館がエジプト展で伝えたかったこと

記事 INDEX

  • 準備期間は2年以上
  • 緊急事態宣言の前日に中止決定
  • ウィズ・コロナの博物館を模索

 新型コロナウイルスの影響で、福岡県内でもほぼ全てのイベントが延期や中止を余儀なくされました。イベントを楽しみにしていた人たちと同じように、主催者側も時間をかけた準備が実らず無念さをにじませます。九州国立博物館(福岡県太宰府市)で開催されるはずだった「古代エジプト展」の担当者もその一人です。「ウィズ・コロナ」の博物館はどうなるのか。話を聞いてきました。


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2年以上の準備が実らず

 古代エジプト展は、九州国立博物館では初となる古代エジプトをテーマにした大規模企画展として、4月25日~6月21日に開催される予定でした。オランダ・ライデン国立古代博物館が所蔵するミイラ棺などを展示するほか、ミイラのCTスキャンの最新研究成果が世界で初めて公開されることになっていました。


2019年7月11日にアムステルダム・メディカル・センターで行われたミイラのCTスキャンの様子(提供:東京新聞)

 古代エジプト展を担当した九州国立博物館企画課長の白井克也さんは、昨年3月にライデン博物館に足を運び、開催に向けて展示品の選定や会場レイアウトなどを取り仕切ってきました。


 

エジプト展はいつ頃から準備に取りかかったのですか?

 

2年以上前から準備してきましたね。

 

そんなに……

 

私の経験上、こういった企画展は準備に平均で3年くらいかかる印象です。長いものだと5年、場合によっては10年くらいかけて準備する企画展もありますよ。


ホルの外棺(提供:東京新聞)


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緊急事態宣言の前日に開催断念

 新型コロナウイルスの感染が広がり、九州国立博物館は2月27日から臨時休館に。ただ、緊急事態宣言が発令される4月上旬までは、いつでも再開できるようにと、展示替えのスケジュールなど全てを予定通りに作業していました。

 そうした状況下、古代エジプト展もぎりぎりまで開催の可能性を探ったそうです。中止の判断を下したのは、福岡県に緊急事態宣言が発令される前日の4月6日。オランダからの国際便の欠航が決まり、展示品だけでなくライデン博物館の学芸員も来日が困難になり、やむなく中止の決断に至りました。


 

展示品を運ぶ航空機がキャンセルになり、急きょ別便をおさえはしたのですが、やはり開催は困難という結論になりました。

 

ぎりぎりでの決断でしたね。

 

「ぎりぎり」をだいぶ超えていました。緊急事態宣言が発令されたので開催はどのみち不可能でしたが、本当に最後の最後まで開催を模索しました。


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奪われた"表現方法"

 博物館や美術館は近年、作品を展示するだけでなく、来場者の理解を促す体験・体感型のイベントを増やしています。古代エジプト展でも、等身大の人形に包帯を巻いてミイラづくりを体験する教室や、エジプト文字「ヒエログリフ」の原理を学んで実際に文を書いてみる企画などを準備していました。


九州国立博物館が準備したヒエログリフの解説資料

 白井さんへのインタビュー取材をした当日、ミイラづくり体験教室で使うはずだった「カノポスつぼ」のレプリカが九州国立博物館に届きました。


ミイラづくり体験のために用意したカノポスつぼのレプリカ


 

遺体の内臓を入れるカノポスつぼです。今日、届いたばかりなんです。なかには、肝臓や肺のぬいぐるみが入っています。

 

日の目を見ることはなくなってしまいましたね。

 

ミイラづくりの体験教室をしている東京都内の博物館で研修を受けて、私たちだけでリハーサルもしました。ミイラづくりを体験することで、古代エジプト人の「死生観」に触れられます。参加して体験することで、より理解が深まるわけです。エジプト展は中止になりましたが、ミイラづくりの体験イベントはいつか開きたいですね。


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ウィズ・コロナの博物館を模索

 九州国立博物館は6月2日に再開し、「きゅーはく どうぶつえん」(7月12日まで)、「筑紫の神と仏」(8月30日まで)を開催しています。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、音声ガイドの使用は中止し、イベントも実施を制限しています。白井さんは「博物館・美術館には、作品を見る『だけじゃない部分』がたくさんあります。そういった活動がほとんどできなくなり、私たちの表現方法が封印されてしまいました」と打ち明けます。


レプリカのカノポスつぼを紹介する白井さん

 「ウィズ・コロナ」の博物館・美術館はどうなるか。白井さんは正解はないと前置きしつつ、「博物館の役割は、普段見られないものをお見せするだけに限りません。ボランティア活動を通じて地域の人たちに活躍してもらう場を提供したり、来場者の知的好奇心にこたえる体験を共有したり、役割の幅が広がっています」と語ります。

 休館期間中、自宅で体験できるワークショップを集めた「おうちdeきゅーはく!」を公式サイトで始めるなど、新たな取り組みにも挑戦しています。「職員みんなで知恵を絞ってウィズ・コロナの博物館のあり方を模索していきたいです」。九州国立博物館だけでなく、全国の博物館・美術館に突きつけられた新たな課題です。

 古代エジプト展は、九州国立博物館からスタートし、全国8か所での開催が計画された巡回展です。詳しくは公式サイトをご確認ください。


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