養生訓は予防医学の古典/養生訓の里ネットワーク設立記念シンポジウム

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採録特集 養生訓は予防医学の古典
養生訓の里ネットワーク設立記念シンポジウム
貝原益軒・養生訓を語ろう
〜江戸の生活習慣病予防、ウェルビーイングの先達に迫る〜

■ 主催:非営利団体 曽田豊二記念 養生訓の里ネットワーク
■ 共催:日本医学ジャーナリスト協会西日本支部

 「養生訓の里ネットワーク設立記念シンポジウム 貝原益軒・養生訓を語ろう」が10月4日、福岡市早良区の九州大学西新プラザで開かれました。現代も読み継がれる名著『養生訓』を著した貝原益軒は3代の黒田藩主に仕え「日本のアリストテレス」とも言われました。シンポジウム第1部では医学、出版、漫画の分野から足跡をたどり、第2部のパネルディスカッションでは今も生きる益軒の教えについて意見を交わしました。


益軒先生の教えを現代に生かそう
【開会あいさつ】原 寛 養生訓の里ネットワーク会長


 人生100年時代を迎えていますが、心身ともに健康で社会とつながり、生活を楽しむことが重要です。貝原益軒先生は江戸時代に生活習慣病の予防と健康と養生を実践されました。その教えを大切にした曽田豊二先生は無料で医療に関する相談ができる養生相談所を開かれました。
 益軒先生と曽田先生の先見性を現代社会に生かすためにゆかりの地でシンポジウムが開かれることは大変意義深いと思います。(代読・安藤文英副会長)
 ※療養中であった原会長は10月16日、逝去されました。


第1部 講演


養生訓につながる心身医学
久保 千春 中村学園大学長・前九州大学総長・日本心療内科学会名誉理事長


 中村学園大学には貝原益軒先生のアーカイブがあり、益軒が残した多くの著作、資料を保存しています。
 養生訓には心身医学に通じる教えがたくさんあります。「養生せざれば短かし。長命ならんも短命ならぬも我心のままなり」とありますが、養生とは心身を健康に保ち長寿をめざす生活の知恵です。
 体と心は密接な関係があります。暴飲暴食を避け、規則正しい食生活、適度な運動と休養、早寝早起、清潔・整頓を実践しましょう。
 怒りや欲望を抑え、心を安らかに保ち、適度な楽しみと節度ある生活によって心身の調和を心がけてください。
 ネズミを使った私の実験でも栄養不良でない程度の栄養制限によって免疫機能が保持され、寿命が2倍以上延長したことが証明されています。
 昨日を悔やまず明日を憂いず今を大切にして、生かされて生きることに感謝しましょう。


病気にならない体をつくる ~現代に生きる養生訓~
奥田 昌子 内科医 『超訳養生訓』編訳


 養生訓は日本における予防医療の古典として長年にわたって読み継がれ、現在にも通じる内容が多いことに驚かされます。
 「栄養を与え過ぎると心や体が弱くなる」という引き算の考え方も大切にしています。食べ過ぎと思ったら、次の食事を抜いてもいい。1日、1週間、場合によっては1か月単位で「腹八分」を目指せばいいのです。
 「野菜は熟した食材を選べ」と説いています。栄養素の量は季節によって大きく変わり、最も多いのが旬の時期です。
 「自分が生かされていることに深く感謝し、慎み深く、心豊かに前を向いて生きる。その先に幸せがある」。それが益軒のメッセージです。


『養生訓』の刊行 ~日本人向け健康書の誕生~
大庭 卓也 久留米大学文学部 国際文化学科教授(日本近世文学)


 益軒は中国のさまざまな学問の成果を日本に紹介し、それを活用して日本の国柄、風土に合わせた学問を構築しました。
 『養生訓』は1713年に京都で出版されました。先に編集していた漢文の『頤生集要(いせいしゅうよう)』に自身が見聞きした内容を加えて分かりやすく和文で著しました。その後大阪で次々に別の版元から増刷され、1843年には濁点を補い、読み仮名も訂正して再版されました。
 1枚の版木で刷れる部数を5000部くらいと考えると、再版分も合わせて合計10000部前後が売れたベストセラーです。


漫画にしたい益軒先生 ~愛妻は22歳年下の"年の差婚"~
高倉 みどり 漫画家 漫画『養生しんしゃい!! ~貝原益軒の人生訓~』作者


 養生訓をはじめ『楽訓』、『大和俗訓』などのメッセージをミックスして時代劇画誌『コミック乱』(リイド社)で、益軒のオリジナル漫画をシリーズ連載しています。
 益軒は70歳で隠居するまで3代の黒田藩主に仕え、福岡藩のブレーン的存在でした。38歳で年下の初(東軒)と結婚。仲睦まじく「琴瑟相和(きんしつあいわ)す」という言葉がぴったりの夫婦でした。
 養生訓は誰もが実践できる健康的な生き方、心を養うための人生の指南書です。


第2部 パネルディスカッション


貝原益軒・養生訓を語ろう
【パネリスト】 小柳 左門 能古博物館長・養生訓の里ネットワーク運営委員/久保 千春/奥田 昌子/大庭 卓也/高倉 みどり
【コーディネーター】 藤野 博史 ジャーナリスト・養生訓の里ネットワーク事務局長



小柳 左門 氏

藤野 まず講演の感想をお願いします。
奥田 異なる立場からのお話を聞き新鮮な知的刺激を受け、体と心の健康が幸せであることを痛感しました。
大庭 浪人中、受験勉強の気晴らしで養生訓を繰り返し読みました。今回改めて養生訓が科学的な根拠に基づいていることを認識しました。
高倉 当時の出版事情を知って「目からウロコ」でした。
小柳 貝原益軒は、私たちみんなが天からいただいた貴い生命を大切にし、人としての道を歩み、病なく、長生きするということが、一番の楽しみであると伝えています。原会長は若い時から総合的な医学に興味を持たれ、予防医学の大切さを強く言われています。久保先生は適度な栄養制限によって寿命が伸びるという科学的な根拠を示され、奥田さんは日本人の体質に合わせた食について話され、興味深くお聞きしました。
奥田 世界12か国の調査によると日本人は善玉菌が一番多くて、がんを引き起こす遺伝子の変化が一番少ないというデータがあります。善玉菌を元気に強くするために餌(えさ)になる食物繊維をたくさんとっていただきたいですね。


藤野 博史 氏

藤野 会場の参加者からの質問をどうぞ。
会場 ストレスはプラス面もありますか。
久保 実験によって適度なストレスが必要であることが分かっています。ストレスに対して体が反応し、知恵も働きます。それによって活性化することはあると思います。
会場 養生訓が出版されたのは京都と大阪だけですか。
大庭 江戸で出版が盛んになるのは江戸期中期以降で、それまでは京都が中心でした。福岡には版元はありませんでした。
藤野 まとめとして今に生きる養生訓の言葉や教えをお話しください。
奥田 「腹八分」が大事です。桜の花も「五分咲き」が美しいと言いますが、何ごとも行き過ぎは体の負担になります。益軒は美しい文章でそれを表現しています。
大庭 静かな部屋で心静かに机の前に座って月や花を愛(め)でて志を楽しくするという言葉を大事にしています。
久保 私の研究につながりますが、食べ過ぎやお酒の飲み過ぎは肥満を招き、健康に良くない。控えめにしてください。
高倉 元気が基本です。寝る前に「今日は元気が増えてプラスだったか」を考え、マイナスにならないように努めましょう。

活動報告・閉会あいさつ
安藤 文英 養生訓の里ネットワーク副会長・曽田豊二文庫代表理事


 「曽田豊二記念養生訓の里ネットワーク」は曽田先生の約3万冊余の蔵書を受け継ぐ曽田豊二文庫を基盤として益軒の誕生日にあたる昨年12月17日に発足しました。
 今後の活動としては、資料の収集、情報発信、オンライン交流会、健康づくりイベントなどを計画、また曽田先生の思いを継いで養生相談所を新たに開設することも検討しています。
 さらに2030年の生誕400年記念事業としてドラマ化や博物館、アーカイブをつくりたいと考えています。




《司会》下田 文代 RKB毎日放送アナウンサー


養生訓の里ネットワーク
福岡は益軒ゆかりの史跡が残る「養生訓の里」。史跡、施設、人々をつないで地元で顕彰し、全国の養生訓に関心を寄せる皆様とともに、交流を深め、成果を全世代の健康長寿に生かしていこうと、益軒誕生日の2024年12月17日、発足しました。その活動は、一般財団法人曽田豊二記念財団の助成を受けています。

<お問い合わせ>
非営利団体 曽田豊二記念 養生訓の里ネットワーク
事務局・曽田豊二文庫 (10時〜15時  日曜休館)
〒819-0055 福岡市西区生の松原3-18-3
電話  092-260-1860  FAX  092-881-1333
Web    https://yojokun.org/
E-mail  contact@yojokun.org


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