私は学生記者として8月18日、福岡県宗像市の県立少年自然の家「玄海の家」で開かれた海と日本プロジェクト「むなかたSDGs教室」を取材しました。小学4年生から6年生までの約50人は魚の調理体験やビーチクリーンなどを通して環境問題と自然保護の大切さを実感していました。ひと夏の経験で成長していく子どもたちの姿を目の当たりにするとともに、環境問題に奮闘し、地元愛を語る大人の真剣さにも感銘を受けました。
山下 和乃佳 (やました・ほのか) 記者
猫と遊ぶのが好きな中村学園大2年生。趣味はファッション雑誌を読むことです。三好不動産(福岡市)が運営する学生ボランティア団体「一般社団法人アースプロジェクト福岡」から参加し、今回の取材活動を通じて以前よりもっと海が好きになりました。
Mission.1 魚さばきと魚料理
「いただきます」海の恵み
教室は、SDGs(持続可能な開発目標) のうち、「質の高い教育をみんなに」「海の豊かさを守ろう」に沿って行われます。準備されたプログラムは「海の恵み体験」「ビーチクリーン」と「世界遺産セミナー」の三つです。前半の2講座では、海洋環境の保全と持続可能な漁業を目指す地元漁師らのグループ「シーソンズ」の皆さんが講師を務めました。
青いTシャツに着替えた子どもたちはグループに分かれ、高校生から大学生までのボランティア約30人とともに席に着きました。ほとんどが初対面とあって、互いに少し緊張ぎみです。お姉さん、お兄さんたちが積極的に自己紹介をして会話を交わすと、すぐに打ち解けたようです。
猛暑が続き、この日の気温もすでに30度を優に超えています。水分補給などの注意事項を聞き、「今日は一日楽しむぞー」の発声に、子どもたちも「オー!」と大きな声で応じました。友人と一緒に参加した舟津綾乃さん(宗像市立河東小6年)は「ふだん経験できないことばかりなので、楽しみです」と開始が待ち遠しそうです。お世話をする深田咲希さん(自由ケ丘高3年)も「ボランティア活動に興味があり、海も好きなので参加しました」と声を弾ませました。
歩いて野外炊飯場に移動して、まずは魚をさばくことからスタートしました。大半の子どもは初挑戦。簡易な生けすの中では30センチほどのアジが泳ぎ回っています。「まだ生きているよ」「魚が跳ねて服が濡れちゃった」。網ですくった魚を手で受け取り、はしゃいでいます。
鮮度を保ち、おいしくいただくためにも、首元付近の骨をへし折り、手際よくしめる作業が重要になります。「無理だ。硬くて難しい 」「(魚を)なかなか持てない」。おそるおそる挑みますが、思い通りになりません。
私も実際にアジをしめてみました。ぎゅっと握っても、身をよじって逃げようとします。玄界灘で大きく育った魚たちに、力強い生命力を感じました。手が小さな子どもたちは余計に大変そうです。
「もっと力を入れても大丈夫だよ」。料理を担当するシーソンズ理事の山田智宏さんがアドバイスを送ります 。飲食店を営むかたわら、子どもたちに海の恵みを味わってほしいと活動に加わっているそうで、やさしく声をかけながら手伝ってくれます。
「魚が苦手な子どもも、自分でさばいて料理することで、『食べてみよう』というきっかけになります。それが私たちのやりがいですね」。昼食でふるまう料理を仕上げる手を休め、活動の意義を説明してくれました。
内臓を取り出し、身を三枚におろす作業は、包丁を使うため、ボランティアが魚を固定したり、手を添えたりして慎重に見守ります。尾びれ近くの硬い部分を取り除くのが難しそうで、「魚から血が出ていて怖かった」と話す子もいました。
山田さんが示すお手本を見ながら、間髪入れずにアジに串を刺していきます。塩を振るだけのシンプルな味付けをして、炭火で焼き上げれば完成です。出来上がるイメージがわいたのか、「おいしそう。早く食べてみたい」と待ちきれず、何度もかまどをのぞき込んでは、焼け具合を確認する子もいました。私も焼き上がる香ばしい匂いに食欲を刺激されました。
昼食には、おにぎりやイカの煮物、味噌汁が用意されました。特に味噌汁は、食物繊維とミネラルが豊富な海藻の一種「アカモク」入りです。シーソンズ唯一の女性漁師さんは「宗像の海で獲れた海の恵みをおいしく味わって」と目を細めていました。
自らさばいたからでしょうか、食べ残しはほとんどなかったようです。「とてもおいしかった。生きた魚を調理する機会はなかなかないので、命のありがたみがわかりました」。自然の恵みに感謝する子どもたちの真剣なまなざしが印象的でした。