提供:アッヴィ合同会社
第38回日本臨床リウマチ学会市民公開講座「どうするリウマチ」が、2023年11月19日、北九州国際会議場(北九州市小倉北区)で開催されました。講演や診察のデモンストレーションを通じ、経験則に頼らず医師と患者双方の見方を数値化した治療方針の組み立てや、最終目標とする「
司会:奥田 美香子さん
2023年11月19日(日)開催 北九州国際会議場
【主催】第38回日本臨床リウマチ学会
【共催】アッヴィ合同会社、読売新聞西部本社
■開会の御挨拶
医師のみならず、看護師、メディカルスタッフも一緒に
第38回日本臨床リウマチ学会 会長
産業医科大学医学部第1内科学講座 教授
田中 良哉氏
日本臨床リウマチ学会は病院の医師だけでなく、看護師、メディカルスタッフも参加して患者さんを目の前にしたリウマチ学を一緒に考えようという団体です。新しい治療、専門化する治療を皆さんに適切にお届けするには、という話もしますが、そのために一番重要なのは「心を込めて」ではないかと考え、第38回日本臨床リウマチ学会のタイトルとしました。この市民公開講座「どうするリウマチ」では、まず中山田先生に講演いただき、その後、私が日本リウマチ友の会の福岡支部長である坂口さんとともに実際の診療を紹介します。最後までお付き合いいただければと思います。今日はどうもありがとうございます。
講演
「エキスパートから学ぶ、関節リウマチ」
産業医科大学医学部第1内科学講座 准教授
中山田 真吾氏
リウマチ治療は「寛解 」を目指す山登り
関節リウマチの患者は全国に70万人~80万人、男女比は1:4と女性に多い病気です。白血球の形という遺伝的な要因に、喫煙や歯周病、腸内細菌の異常など環境的な要因が重なって発症すると考えられます。(※1)正常な関節はクッションの役割をする軟骨と骨を滑膜が取り囲み、滑液で満たされてスムーズに動くようできています。関節リウマチにかかると滑膜にリンパ球が集まって炎症を引き起こします。リンパ球は体中を巡っていますから、全身に影響し、関節の痛みも移動することがわかります。
人体には疫病から体を守る免疫システムがあり、正常なリンパ球は細菌やウイルスを見つけると抗体を作り体内から排除する働きをします。ところがリウマチでは、リンパ球が自分の体を攻撃してしまいます。関節内の物質を攻撃し炎症を起こす自己抗体というものを作るのです。つまり、リウマチはリンパ球の病気であり、自分に対して免疫が働く自己免疫疾患(膠原病)なのです。
関節リウマチは、痛みや腫れ、朝のこわばり、日常の動作がしづらいといった関節の症状だけでなく、だるさ、微熱、食欲低下など一見関係なさそうな全身の症状が出ることもあります。
診断の基準は、少なくとも一つ以上の関節の腫れがあり、他の疾患では説明できず、その上で腫れや痛みのある関節の数、血清学的検査など4項目の程度を点数化して一定点数以上であれば関節リウマチと判断します。(※2)血液検査だけで判断せず、必ず関節を触診して確認することが重要です。触診では肩、肘、手首、指、膝の28か所の関節を触診、腫脹(腫れ)関節、圧痛(押すと痛い)関節の数をそれぞれ確認して記録します。
治療は症状の程度をスコア化した疾患活動性(CDAI)を基準にします。圧痛関節数、腫脹関節数に加えて患者さんの全般評価(VAS)、医師による全般評価を足して点数を付けます。点が低いほど症状が落ち着いていると判断でき、点数によって「寛解」「低(疾患状態)」「中」「高」の4段階に分類して治療方針を決めます。寛解であればリウマチの進行は止まり、普通の生活を送れる可能性があります。治療は頂上の「寛解」を目指す山登りです。患者さんの病歴や体の状態などで道のりは違いますし、寛解が難しい場合もあり、目標を七合目ぐらいの低疾患状態とすることもあります。寛解を正しく理解し、患者と医師とのコミュニケーションを大切に、看護師、薬剤師など医療チームが一丸となって共通の目標に取り組むことが大切です。
治療は3か月、遅くとも6か月で目標に近づいているかを疾患活動性評価で判断します。改善がみられない場合は、薬物治療を見直します。発症してから半年で改善できれば炎症を繰り返す恐れが少なくなるので、早期の治療が重要です。寛解を維持することも大切で、投薬やリハビリを続けるケースもあります。
疾患活動性の評価では、患者さんが現在の痛みなど症状と体調をどう感じているかを報告することが重要です。診察の日には10センチのスケールを使い、症状がなく体調が良好な状態を0、今までで一番悪い状態を10として現在の状態が、これまでと比較してどの位置に相当するかをチェックしてもらいます。また、悪いところを具体的に医師に伝えることも大切です。
治療薬のうち非ステロイド性抗炎症薬とステロイド薬は、腫れや痛みを和らげることが期待できます。抗リウマチ薬は炎症を抑え、症状を改善し関節破壊の進行を抑えることが期待できます。代表的なのは疾患修飾性抗リウマチ薬で、最近では生物学的(バイオ)製剤や、JAK阻害剤という薬もあります。関節リウマチと診断されたら、csDMARDsのアンカードラッグを使い、効果が十分でなければバイオ製剤やJAK阻害薬の中から患者さんに合った薬を選べるようになりました。
関節リウマチは全身の病気です。適切な抗リウマチ薬で関節の炎症・破壊を抑えることが期待できます。目標を決め、医師を始め医療チームと一緒に治療を進めましょう。寛解を目指し寛解を維持することが最終目標です。医師と患者が十分に相談し、できることを探して決してあきらめないことが大切です。
※1…竹内勤. 日内会誌 109(9): 1669-1684, 2020
※2…Aletaha D, et al. Arthritis Rheum. 2010; 62(9):2569-2581.
診察のデモンストレーション
「体験!田中先生のリウマチ診察室」
田中 良哉氏
公益社団法人日本リウマチ友の会 福岡支部 支部長
坂口 綾子氏
患者と医師双方の判断を反映
診察は問診から始まりました。発症から現在の病状、体調まで細かく、田中教授は話を遮ることなく丁寧に聞き取ります。坂口さんは病歴を時系列に沿って説明。田中教授はそれを聞き取りカルテに記入していきます。
次に関節の触診を行います。初診で68か所、二回目以降は28か所です。一か所ずつ指で押さえて腫れと痛みを患者さんに確認しながら、評価用紙に腫れと痛みの部位をチェックします。坂口さんは、痛み3か所、腫れ1か所でした。次の患者さん自身による全般健康度評価(PGA)では「全く具合の悪いところがない」を0、「これまでで最も具合が悪い」を10とした10センチのスケールに、現状はどの位置ぐらいかチェックしてもらい0からの長さが点数となります。医師から診た状態も同様のスケール(EGA)でチェックします。目のゴロゴロ感、リンパ節の腫れをチェックし、聴診器で心音や肺の音も確認し、関節以外の部位に影響が出ていないかも調べました。
診断には2010年リウマチ分類基準を用います。(※3)坂口さんは「関節病変」「血清学的検査」など4項目の点数が基準を超えており、関節リウマチと診断されました。「関節の触診がないと基準表は使えません。触診しないで関節リウマチと診断することはできません」と田中教授は強調します。
病気の重症度を判断するために田中教授らが用いているのが診察で得たデータを点数化した「関節リウマチ疾患活動性評価(SDAI)」です。「圧痛関節数」「腫脹関節数」「PGA」「EGA」の合計(CDAI)にCRP(炎症の強さを示す血液検査値)を加えた値が4段階のどこに当たるかで判断します。坂口さんは7点で軽い方から2番目の「低疾患活動性」で、治療は順調で投薬を変える必要はないとされました。
田中教授は「『高』『中』は薬を変える必要があり、『低』でも寛解を目指すなら薬を変えるなどしても良い。患者さんと医師双方の判断が反映されているので客観的に評価できます。これに、持病の有無をはじめ患者さんの全身状態を考慮し、治療を行います」と話していました。
※3…Aletaha D, et al. Arthritis Rheum. 2010; 62(9):2569-2581.
閉会の御挨拶
田中 良哉氏
患者さんのご意見や診断スコアを元に点数を付け、点数ごとに治療方針が定まっているので何も迷うことはありません。患者さんごとに状態や年齢性別、持病も違いますので、そこは配慮しますが決して迷いません。「どうすればいいんだろう」と皆さんと一緒に考えながら、今回の日本臨床リウマチ学会のテーマである「心を込めて」と「チーム医療」でリウマチの治療を行います。最終的に患者さんが普通に楽しく生活する、仕事をすることができるように、皆さんと歩んでいきたいと考えています。今日は本当にありがとうございました。
2024年3月作成
JP-RNQR-240051-1.0
企画・制作:読売新聞社ビジネス局