川霧が立ちこめるなか、緑やピンクなどの鮮やかな列車が、トコトコ進む。清流・錦川の流れに沿うように走り抜ける姿は幻想的だ。
錦川鉄道は、山口県や同県岩国市などが出資する第3セクター。国鉄時代に岩国市と島根県津和野町(旧日原町)を結ぶ鉄道として計画された。1980年、工事が中断され、87年に国鉄が分割民営化されたのに合わせて錦川清流線として再出発した。
同線は、岩国市の川西駅から錦町駅までを結ぶ全長32.7キロ。川西駅―岩国駅間(5.6キロ)はJR線に乗り入れている。
桜並木やアユ釣りを楽しむ太公望、紅葉や雪原など、車窓からは四季の移ろいが感じられる。コロナ禍で観光客は激減しているが、通勤通学の足として奮闘中だ。
(写真:久保敏郎、中島一尊)
<読売新聞 西部夕刊 2021.9.2~9.28 掲載>
暗闇のアートくぐり
終点の先へ――。延伸工事が中止となり、線路が敷設されなかった道を、電気自動車がのんびりと客車を引いていく。待ち受けるのは豊かな自然と、「カラフルな暗闇の世界」だ。
錦川鉄道錦川清流線(山口県岩国市)の終着駅、錦町駅から 雙津峡(そうづきょう) 温泉駅までの約6キロを時速10キロほどで進む遊覧車「とことこトレイン」。開通しなかった区間に残された高架橋やトンネルなどを観光資源に生かそうと、2002年に運行を始めた。清流のせせらぎが聞こえ、季節の花も楽しめる。
見せ場は、全長約1.8キロの「きらら夢トンネル」。地元の小学生らが蛍光石を並べて描いた太陽などの作品が内壁を飾り、ブラックライトに照らされると作品が浮かび上がる。トンネルの真ん中あたりで一時下車でき、幻想的な空間を楽しめる。累計40万人以上が訪れている人気スポットだ。
歴史をたどる旅へ出発
錦川鉄道錦川清流線の終点・錦町駅(山口県岩国市錦町)とその周辺は、地元の歴史や文化を一体的に伝える「まちぐるみ博物館」として静かな人気を集めている。
ホームにひっそりと立つのは、役目を終えた信号機。上下させて知らせる「腕木式」で、二つ手前の河山駅に1987年まで設置されていた。構内の展示館には、鉄道ファンから寄贈されたジオラマ模型がある。壁には錦町駅が開設された63年当時の様子が分かる写真や、国鉄時代の列車に取り付けられていた行先板が掲げられている。
駅を出ると、江戸時代から伝わる造り酒屋の地酒を販売する店や、昭和時代に親しまれた映画のポスターなどが見られる。懐かしい雰囲気も相まって、訪れる人を楽しませている。
月に1度の至福の絶景
錦川鉄道錦川清流線(山口県岩国市)には、景観を楽しむためだけの秘境駅がある。2019年3月、26年ぶりに誕生した新駅「清流みはらし駅」だ。
山あいを進むと、錦川に沿った断崖にホームが突如現れ、眼下の清流や山側の滝など絶景を味わえる。
駅舎の5連のアーチ屋根は、岩国市が誇る国の名勝・錦帯橋と白蛇をイメージした。近くに道や橋はなく、列車でしかたどり着けない。停車するのは、月に1本程度運行される臨時列車のみだ。
列車を運転!…夢のような時間
あこがれの「列車運転士」に――。錦川鉄道錦川清流線には、そんな夢をかなえてくれる企画がある。年に数回開かれる体験会だ。
舞台は、終着駅の錦町駅(山口県岩国市)。参加者たちは車両の構造を学んだ後、運転機器の取り扱いも覚え、いよいよ運転席へ。
安全確認後、レバーを手前に動かすと、列車はゆっくり動き出す。加速させたり、減速させたり……。本職の運転士から指導を受けながら、みんな真剣そのものだ。最後は、決められた場所に停車させる。
8月28日には県内外から男女7人が体験した。4人が初挑戦。19回目の参加という岡野大雅さん(47)(千葉県船橋市)は慣れた手つきで操作しながらも、「この緊張感はやみつき」と笑顔を見せた。
運転区間はわずか約70メートル。あっという間だが、夢のような時間が味わえる。
※ 年齢・肩書などは当時
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