【鉄路ノート】JR日豊線 九州を東回りに462キロ

企画

トラス構造が連なる鉄橋を渡る特急「にちりん」

 耳川(宮崎県日向市)に架かる鉄橋を、特急「にちりん」が駆け抜けた。三角形に部材を組み合わせた「トラス構造」が連なる橋を渡る姿は、目を引く。

 JR日豊線は、小倉駅から大分駅、宮崎駅などを経由して鹿児島駅までを結ぶ。全長462.6キロの路線は九州では最も長い。



 1895年(明治28年)に「九州鉄道」が小倉―行橋駅間で開業したのがルーツ。1932年(昭和7年)に全線が開通した。


朝焼けをバックに走るJR日豊線の電車。奥は日向灘

 沿線には別府温泉(大分県別府市)や霧島神宮(鹿児島県霧島市)などがある。鹿児島駅の手前では、車中から錦江湾を挟んで桜島を望むことができる。

(写真:秋月正樹、木佐貫冬星)

<読売新聞 西部夕刊 2022.11.12~12.26 掲載>

中津名物 なが~く愛して

 JR日豊線・中津駅(大分県中津市)のホームに、ひときわ目を引くベンチがある。全長約10メートルの「日本一長い鱧(ハモ)の椅子」。地元の名物・ハモ料理にちなんだネーミングだ。


中津駅のホームに設置されている全長約10メートルの「日本一長い鱧の椅子」

 中津市は全国に知られるハモ料理の本場。中津耶馬渓観光協会によると、しゃぶしゃぶや湯引き、すしなどを提供する店は約20軒を数える。ベンチはそのPRのため、地元の人々の協力で1994年に設置した。風倒木から作り、背もたれに横幅いっぱいの長さでハモのイラストが描かれた。


中津駅の駅名標は「つ」の文字にハモがデザインされている


 駅を利用した横浜市の女性(68)は、「インパクトがすごい。コロナ禍で、他の人と間隔を空けて座れるのもいい」と話した。



 谷昌之駅長(44)によると、ベンチを目当てに駅を訪れる観光客もいるという。「『鱧の椅子』に座ったら、中津でハモ料理も味わって」と笑う。


朝日に映える紅

 朝の日差しを浴びて、鮮やかな紅の車両が快走する。側面に太陽のマークをあしらった「サンシャイン」は、宮崎ならではの車両だ。


宮崎県内のみで運転されている「サンシャイン」。鮮やかな紅の車両が朝日に映える

 1996年7月、JR宮崎空港線(田吉―宮崎空港間)の開業に伴って登場し、日豊線での運行も始まった。ドア部分の色を変え、「宮崎の太陽と海と緑」をイメージしたカラーリング。サンシャインの愛称は一般からの公募で決まった。


特急車両から転用したリクライニングシートが設けられた車内


 現在、2編成が延岡―宮崎空港間で運行されている。通勤や通学での利用が多い日豊線だが、特急車両から転用したリクライニングシートを設けるなど、お得感のある列車として親しまれている。



降り立つと…アメリカ?


宇佐のローマ字表記「USA」を米国になぞらえ、星条旗のようなイラストがあしらわれた宇佐駅の駅名標

 JR日豊線・宇佐駅(大分県宇佐市)ホームに掲げられた駅名標に、星条旗のようなイラストがあしらわれている。宇佐をローマ字で表記すると「USA」。駅名を米国になぞらえた遊び心だ。



 2016年に駅ホームの改良工事を行った際、駅名標の更新も必要になり、現在のデザインに改めた。赤と白のストライプで神社を描き、紺色のバックには「八幡 総本宮 宇佐神宮」の白抜きの文字。カラーリングも相まって、遠目には星条旗と見誤りそうだ。


宇佐駅のホームから見える「USA」のオブジェ


 JR九州の管内では、小倉駅は「小倉祇園太鼓」、鹿児島駅は「桜島に桜島大根」のように、地域にちなんだイラストなどが描かれた駅名標を多く見かける。訪れた人たちに土地の魅力を伝える役割も果たしている。


喫茶店の「看板車両」

 壁一面に掲げられた実物のヘッドマークや 行先板(いきさきばん) 、そして圧倒的な存在感を放つディーゼルカー「キハ20形」。JR日豊線・宮崎神宮駅(宮崎市)から徒歩15分ほどの「喫茶ろくろ」は、鉄道ファン垂ぜんの品々にあふれる空間だ。


実物の車両やヘッドマークなど鉄道ファン垂ぜんの品々にあふれる「喫茶ろくろ」

 マスターの中原正典さん(68)は日豊線沿いで育ち、鉄道の撮影などに没頭した、この道50年を超えるファンだ。


鉄道の魅力を語る中原正典さん


 約30年前、市内の別の場所から店舗を移転する際、「新築する店のシンボルにしよう」と、かつて国鉄高千穂線などを走った車両を購入した。「キハ20形を眺められる店がある」と評判になり、遠くは東北からも客が訪れるように。常連客らが鉄道談議に花を咲かせる。



 「鉄道に乗らない」という客がいれば、その魅力を語って聞かせることも。「鉄道に興味を持ってもらう場として店を続けていきたい」と話す。


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秘境駅をじっくり見物


普段は停車しない昼間に「日豊本線秘境駅号」から下車した乗客たちが、ホームを見学した宗太郎駅

 大分・宮崎の県境に近いJR日豊線・宗太郎駅(大分県佐伯市)を、鉄道ファンは「秘境駅」と呼ぶ。

 駅の時刻表を見ると、その理由が分かる。上り(佐伯方面)は午前6時39分と午後8時35分の2本、下り(延岡方面)は始発にして最終の午前6時54分だけ。駅に降りるのも、駅を発(た)つのも難しい。それゆえの“秘境”だ。


宗太郎駅に置かれている、メッセージが書かれた石


 そんな、日頃訪れる機会の少ない日豊線の駅を巡るツアー「日豊本線秘境駅号」が11月26日、JR九州の企画で催された。佐伯(佐伯市)―延岡(宮崎県延岡市)間で、宗太郎駅など1日に数本しかとまらない9駅に余裕をもって停車し、ホームをじっくり見物できるもので、42人が参加した。



 宮崎県門川町から友人と参加した男子高校生(18)は、宗太郎駅について「普段は昼間の時間帯に降りられない駅で、まさに秘境の雰囲気」と話し、ホームからの景色を撮影していた。


ぬくもりの杉に包まれて

 JR日豊線・日向市駅(宮崎県日向市)のホームで頭上を見上げると、ぬくもりを感じさせる木の屋根が広がる。長さ約110メートル、幅約18メートルの屋根に使われた木材は、地元の耳川流域で産出された杉だ。


地元産の杉を使った屋根が広がる日向市駅のホーム


 現在の駅舎が開業したのは2006年。駅周辺の高架化に合わせて全面的に刷新された。建築や都市の専門家、鉄道関係者、行政、市民らが協力し、10年以上をかけて完成させた。


外観も美しい日向市駅


 地元産の木をふんだんに用い、地域が育んだ「杉の文化」を表現する理念は国内外から高い評価を集めた。07年に鉄道建築協会が主催する顕彰で、最高賞にあたる国土交通省鉄道局長賞を受賞。08年には、国際的な鉄道関連のデザインコンテスト「ブルネル賞」駅舎部門の優秀賞に、日本で初めて選ばれた。21年度までに視察に訪れたのは423団体、6161人。今も日向市駅は、建築と鉄道を愛する人々をひきつけている。



駅舎は「神様の玄関口」


神社を模した外観の霧島神宮駅

 鳥居をくぐり、鮮やかな朱色に彩られた駅舎に入る。ホームの支柱や鳥居の形の駅名標も朱色。JR日豊線・霧島神宮駅(鹿児島県霧島市)は、霧島神宮がモチーフの意匠にあふれる。


鳥居の形をした駅名標や朱色に塗られたホームの支柱


 2004年の九州新幹線部分開業に合わせて、霧島神宮をアピールしようと鳥居を設置し、駅舎などの朱色も塗り直した。駅名にたがわぬ「最寄り駅」ではあるが、霧島神宮まで約6.5キロの距離で、車でも10分ほどかかる。それでも、同駅に降り、バスやタクシーに乗り換えて神宮に向かう人は少なくない。



 夫婦で霧島旅行を楽しんだ静岡県掛川市の男性(67)は「神宮までは遠いけれど、駅の雰囲気が良い。列車で来ないと、この駅も見られなかったですね」と話していた。

リニア実験線跡に「太陽光」


リニアモーターカー実験線跡の高架橋に並べられた太陽光パネル

 JR日豊線・都農(宮崎県都農町)―美々津(日向市)間の線路に沿うように全長約7キロにわたって続く高架橋。ここを鉄道車両が走ることはない。


実験線を走行するリニアモーターカー(1994年、本社ヘリから)

 高架橋は1977~96年に、リニアモーターカーの実験線として用いられた。山梨での実用化実験にバトンタッチして、試験走行の場としての役目を終えた。



 今、高架橋は太陽光発電の場となっている。宮崎県は年間の日照時間と快晴日数が国内有数で、地理的な有利さを生かして、官民を挙げて太陽光発電産業の拠点化を目指している。高架橋の活用はその一環だ。2010、11年に「都農第1・第2発電所」が完成。計3.9キロに約1万3000枚の太陽光パネルが並び、都農町役場などの公共機関に電力を供給している。

※ 年齢・肩書などは当時

動画(読売新聞オンライン)はこちらから

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