【鉄路ノート】JR日南線 南国感漂う海岸線に沿って…

企画

朝日に照らされた橋の上を行く日南線の車両

 日の出から間もない時間帯、朝日に照らされた橋の上の列車がシルエットになって浮かんだ。



 南宮崎(宮崎市)―志布志(鹿児島県志布志市)間の88.9キロを結ぶJR日南線は、変化に富む車窓の風景が特徴だ。南国の雰囲気が漂う日南海岸沿い、深い山あい、広がる田畑……。地元産の飫肥(おび)杉が使われた観光列車「海幸山幸」も走る。昨年12月には、大雨による土砂崩れで不通となっていた区間が約3か月ぶりに運転を再開。来年で全線開通から60年を迎える路線の復旧を、多くの利用客が喜んだ。

(写真:木佐貫冬星)

<読売新聞 西部夕刊 2022.2.7~2.26 掲載>

「日本一の早咲き」桜


見事な花を咲かせた「日南寒咲一号」

 黄色い列車がピンク色の桜の前を通過していく。JR日南線・北郷駅(宮崎県日南市)の前では、「日本一の早咲き」とも言われる桜が咲いていた。

 「日南寒咲(かんざき)一号」と名付けられた品種で、地元住民が山桜の交配を重ねて開発。近畿在住の日南市北郷町出身者らが1996年、地域おこしの一環で線路沿いに約20本を植えた。



 観光スポットにもなっており、宮崎県三股町の男性(79)は「毎年来るのが楽しみ。今年もきれいですね」と熱心にシャッターを切っていた。

心も洗う「鬼の洗濯板」

 日南海岸を見下ろす車内から、波状の奇岩を見渡せる。JR宮崎駅から列車で約40分。日南線沿線の特徴的な風景の一つ、「鬼の洗濯板」だ。


波上の奇岩「鬼の洗濯板」

 約700万年前の地層が隆起し、波で少しずつ削られて形作られた。巨大な洗濯板に見えるため、その名が付いたとされる。

 満潮時には海に隠れて見えなくなってしまうが、宮崎を代表する観光名所となっている。



 この絶景を見られる内海―小内海間(宮崎市)では、観光列車「海幸山幸」も線路上で一時停車し、案内や記念撮影の時間が設けられる。

「海幸山幸」で神話の世界へ


観光列車「海幸山幸」の車内で、列車名の由来になった神話を紙芝居で説明する客室乗務員

 「むか~しむかし、日向の国、今の宮崎に……」。JR日南線を走る観光列車「海幸山幸」(宮崎―南郷駅間)の車内に、客室乗務員の情感あふれる声が響いた。JR九州が運行する観光列車の中で、唯一行われている紙芝居のサービスだ。

 日向神話に登場する兄弟「海幸彦」と「山幸彦」にまつわる伝説の物語。列車名の由来にもなった神話を乗客にも知ってもらおうと、運行開始当初の2009年から続いている。


日向灘をバックに走る列車


 全て客室乗務員が色鉛筆で描いた。乗務員歴約10年の尾塚知佳さん(32)は「紙芝居を目当てに乗車されるお客様もいます」と話す。家族で乗車した福岡市の会社員男性(35)は「神話のことは初めて知った。面白いサービスですね」と喜んだ。



 地元産の「飫肥杉」が内装に使われるなど、温かみのある車内が特徴の海幸山幸。乗務員のサービスも、手作りのぬくもりにあふれている。

土砂災害からの再出発


復旧した小内海駅に立つ堀さん

 復旧した駅のホームに立ち、行き来する列車を感慨深そうに見つめている。「本当に良かった」。JR九州・宮崎総合鉄道事業部助役の堀竜太さん(40)が静かに語った。JR日南線は昨年9月、大雨による土砂災害に見舞われた。 小内海駅(宮崎市)は駅舎やホームが流失し、青島(同)―志布志(鹿児島県志布志市)間の76キロが不通となった。



 地域を支える路線を一日も早く復旧させようと、工事担当の堀さんは奔走。地権者ら関係者との調整に当たり、想定より約2週間早い昨年12月11日の再開を実現させた。当日の小内海駅周辺には、「お帰り」と書かれた手旗を振って列車を見送る人の姿も。堀さんは「多くの人たちにいつまでも利用してもらえる路線になってほしい」と話していた。

無人駅、癒やしと静けさ


ポツンとたたずむ福島高松駅の木造駅舎

 民家や牛舎が点在する静かな集落に、ポツンと立つ小さな無人の木造駅舎。さみしげで、どこかはかなげな雰囲気を漂わせているのが、JR福島高松駅(宮崎県串間市)だ。

 扉はなく、駅舎の中は吹きさらしの状態。むき出しの壁板や古びた木製のベンチは、風雨にさらされてきたためか傷んでいた。ただ、設置された「駅ノート」には、「のどかでいい所」「牛の鳴き声に癒やされる」などと書き込まれている。


訪れた鉄道ファンらが思いを書き込む、福島高松駅の「駅ノート」


 約70年前に開業し、駅員宿舎も備えていた駅の利用者は次第に減少。今では駅舎の一部が待合室として残るのみ。近所の男性(65)によると、乗降客は1日数人ほど。それでも、「秘境感」にあふれた駅は多くの人の心を引きつけている。



青い海と列車を一望

 宮崎県日南市に、日向灘の青い海とJR日南線を走る列車を一望できるスポットがある。「南郷城跡」と呼ばれる場所だ。


展望台から望む海とJR日南線


 1601年、飫肥藩の伊東氏が築いたとされる山城の跡地。高台にあって眺めが良いことから、約20年前に近くの窪田平八さん(88)が近所の人たちに呼びかけ、草を刈り取ったりベンチを設置したりして展望台を整備した。


絶景を楽しめる南郷城跡の展望台


 住民には憩いの場として親しまれ、鉄道ファンには絶好の撮影スポットとして知られるようになった。窪田さんは「これからも来た人に喜んでもらえるよう、手入れを続けたい」と話す。



※ 年齢・肩書などは当時

動画(読売新聞オンライン)はこちらから

<鉄路ノート>に掲載された写真の購入や二次使用については、読売新聞西部本社 企画共創部へ電話(092-715-4354)、メールでお問い合わせください。



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