記事 INDEX
- 守ってきた国重文の神楽
- 鬼神に抱かれて健やかに
- 地域に響く「わっしょい」
福岡県田川市の春日神社に伝わる神幸祭が、5月27、28日、同市の後藤寺地区で行われました。コロナ禍により2020年から中止が続きましたが、4年ぶりに神輿(みこし)が地区内を巡行し、商店街や大通りなどで「わっしょい、わっしょい」と威勢の良い声が響きました。
守ってきた国重文の神楽
五穀豊穣(ほうじょう)や地域の安全などを祈願する春日神社の神幸祭は、400年以上の歴史があると伝えられます。祭りで奉納される「春日神社岩戸神楽」は、2016年に国の重要無形民俗文化財に指定された「豊前神楽」の一つです。神輿の巡行とともに、祭りの大きな見どころとなっています。
<豊前神楽>
福岡県豊前地域や大分県中津市と宇佐市の旧豊前国に伝わる神楽。江戸時代まで神職が伝承し、明治以降は民間の神楽団体が受け継いでいる。福岡、大分県豊前神楽保存連合会が、国指定重要無形民俗文化財の保護団体として指定された。
ご神体を乗せた神輿が春日神社からJR田川後藤寺駅前の「お旅所」に向かう「お下り」が行われた5月27日。出発前の神事に続き、伝統の神楽を保存会のメンバーが奉納しました。神楽を目当てに、多くの写真愛好家や家族連れらが境内に集まり、暴れる鬼神を鎮める「土神風神の舞」に見入りました。
保存会世話役の平野和博さん(68)は「コロナ禍で練習できない時期もあったが、無事に奉納できて安心しました。多くの人に見てもらう機会は久しぶりで大変ありがたい」と喜んでいました。
鬼神に抱かれて健やかに
抱かれた子どもは健やかに育つ――。春日神社岩戸神楽の「鬼神」には、こんな言い伝えがあります。
子どもの健やかな成長を願う親たちは、鬼神のそばへと子どもを連れていきます。鬼神に抱えあげられた子どもは、鬼神のお面や迫力に驚き、手足をバタバタさせながら大泣きです。元気に泣き叫ぶ様子を保護者は笑顔で見守り、記念の写真を撮っていました。
市内の金色美穂さん(31)は、生後11か月の華蓮ちゃんが鬼神に抱きかかえられる様子をスマートフォンで撮影。「子どもを鬼神に抱いてもらうのを楽しみにして来ました。病気をせず、すくすく成長してほしいです」とほほ笑んでいました。
地域に響く「わっしょい」
ご神体を乗せた神輿は午後1時30分すぎ、口上を行った猿田彦の道案内を受け、白装束の男たちに担がれて神社を出発。女神輿と子ども神輿、6台の山笠を従えて、お旅所を目指します。
神輿が街に繰り出すのを阻止しようと、鬼神が前に立ちふさがります。押したり押されたり、せめぎ合いを制して鬼神を振り払った神輿は、また勢いをつけてお旅所へと進んでいきます。
「わっしょい、わっしょい」の掛け声とともに、神輿は後藤寺地区内を3時間以上かけて巡行。JR田川後藤寺駅前に設けられたお旅所に到着しました。
神輿の指揮者を務めた片野翔太郎さん(41)は、小学生の頃から神幸祭にかかわっています。「神幸祭は人生の一部。4年ぶりに神さまをお旅所にお連れすることができました。祭りがずっと続いていくように地域を盛り上げていきたい」と語りました。
駅前の特設広場は、地元の子どもたちや団体による舞台発表や山笠コンクールで盛り上がりました。山笠を斜めに傾けたり、小回りをきかせて回転したり、それぞれがパフォーマンスを競い、見物人から大きな拍手が送られました。最優秀の春日大賞には「奈良区」が輝きました。
春日神社の重藤将宏宮司(66)は「多くの人が神幸祭を待ち望んでいたことを強く感じました。祭りで地域の絆がより深まり、街の活性化につながっていくことを願っています」と話していました。
あわせて読みたい:
▶4年ぶりに開催!田川市に初夏を告げる「川渡り神幸祭」