田川市のまちなかアートを見て歩く 作品がつなぐ記憶と想い

企画

平成筑豊鉄道・田川伊田駅のホームにあるオブジェ「しあわせの蒼い鳥」

記事 INDEX

  • 幸福をはこぶ鳥とハート
  • 公園全体がまるで博物館
  • 炭都ミュージアムロード

 福岡県田川市を歩いていると、まちなかにアート作品が点在していることに気がつくはずです。周囲の景観に溶け込んでいたり、ひときわ存在感を放っていたり――。作品の新旧を問わず、地域の歴史や記憶、想(おも)いを伝え、なにより地元の人たちに愛されているものばかりです。

幸福をはこぶ鳥とハート

 平成筑豊鉄道・田川伊田駅のホームには、鳥が大きく翼を広げたような形の鉄製オブジェが設置されています。現代アート作家・そのだ正治さん(福岡県飯塚市)が手がけた「しあわせの蒼(あお)い鳥」です。


鳥やハートが連なったオブジェ


 ホームでは、1986年公開の映画「男はつらいよ~幸福(しあわせ)の青い鳥~」のロケが行われました。出演した長渕剛さんと志穂美悦子さんがのちに結婚したこともあり、オブジェは縁結びスポットの”象徴”として制作されました。作品の前に立って写真を撮ると、羽を広げた天使のようにも見えます。


翼を大きく広げたような造形が印象的


 ホームへつながる階段の壁も必見です。そこに描かれているのは「しあわせの緑の鳥」。福岡県出身の俳優・池田エライザさんが初めて映画監督を務めた「夏、至るころ」は田川市を舞台に撮影され、その際に池田さんが直筆したものです。


池田エライザさんが描いた「しあわせの緑の鳥」


 田川伊田駅と石炭記念公園を結ぶ連絡通路「作兵衛トンネル」には、イラストレーターの黒田征太郎さんが筑豊ゆかりの炭坑絵師・山本作兵衛氏へのオマージュ作品として描いた絵画が飾られています。また、石炭を運ぶ蒸気機関車をモチーフにしたトリックアートも設置されています。


黒田さんが描いた山本作兵衛氏へのオマージュ作品


公園全体がまるで博物館


 石炭産業で日本の近代化を支えた田川市。三井田川鉱業所伊田坑の跡地に整備された石炭記念公園には、市のシンボル「二本煙突」や「竪坑櫓(たてこうやぐら)」をはじめとする炭鉱遺構があり、公園全体がまるで博物館のような存在です。


石炭記念公園に残る竪坑櫓


 そのださんの鉄製オブジェは、二本煙突の近くにもあります。煙突の築造111周年を記念して作られた「百年(とわ)の鐘」です。小さなハートがいくつも集まり、大きなハートの形をつくっています。


ハート形オブジェ「百年の鐘」と二本煙突


 二本煙突は仲むつまじく並ぶ姿から「夫婦煙突」とも呼ばれます。オブジェには、鐘を鳴らして愛を誓い合ったり、恋愛成就を願ったりするスポットになれば――との思いが込められています。


愛を誓い合ったり、恋の成就を願ったり


 彫刻家・山名常人氏が1982年に制作した「炭坑夫之像」は、仕事を終えて帰途につくヤマの夫婦をモチーフにしています。石炭産業で栄えた昭和10年代をイメージした作品とされ、夫婦が見つめる先には二本煙突がそびえています。


昭和10年代をモデルにした「炭坑夫之像」


 公園内には「炭坑節発祥の地」の碑があり、そばにピラミッド形の黒いオブジェが鎮座します。石炭採掘時に出る石(ボタ)を積み上げた「ボタ山」を表した作品。二本煙突と竪坑櫓を背後に望め、活況に沸いた時代がよみがえってくるようです。


ボタ山がモデルのオブジェ。奥には竪坑櫓(左)と二本煙突


炭都ミュージアムロード


 伊田商店街から公園内の市石炭・歴史博物館方面へ続く約250メートルの市道は、「炭都ミュージアムロード」として整備されています。


炭都ミュージアムロード


 市道脇からの視線を感じて顔を向けると、黒い犬のオブジェ「せきたん君」が舌を出してこちらを見ていました。黒田さんが古き良き時代に人情の中で生きた野良犬をモチーフにデザインし、そのださんが制作しました。


黒田さんがデザインし、そのださんが制作した「せきたん君」


 せきたん君の近くには、大きなリボンが特徴的な「たんととちゃん」の姿も。アイドルグループ・HKT48の元メンバーで「たがわ魅力向上大使(tanto大使)」を務める小田彩加さんがデザインしました。


大きなリボンが特徴の「たんととちゃん」


 お嬢様犬「たんととちゃん」は、1匹で強く生きる「せきたん君」に想いを寄せているという設定。ストーリーを知れば、作品を見て回る楽しみも増してきます。


 2匹の間に置かれた黒いボードにも注目です。縦1.8メートル、横3.6メートルで、田川市を訪れた著名人らにイラストやサインを描いてもらうメッセージボードです。


著名人が残したイラストやメッセージ


 田川市のまちなかアートの魅力について市美術館広報主任の長野麻知子さんに聞くと、「いずれも田川にちなむ縁や思いが込められた作品。アートを通して田川の歴史や文化も学べます」と説明してくれました。


炭都ミュージアムロードに設置された作品群


見どころはほかにも!


 丸山公園の野外ステージ壁画は、国内外で活躍するペイントアーティスト「よかPAINT」が手がけた作品です。美しさと迫力を併せ持つ桜が描かれ、季節を問わずに”花見”を楽しめるスポットです。


野外ステージ壁画に描かれた桜(2020年春撮影、田川市提供)


 よかPAINTによる作品は、伊田商店街でも見ることができます。「田川の文化」をテーマに2019年7月に描かれたシャッターアートで、獅子頭などを大迫力で表現しています。


伊田商店街のシャッターアートを制作した「よかPAINT」(2019年7月撮影、田川市提供)


 現代的な作品からセピア色の情景が浮かんでくるものまで、田川のまちなかアートは個性派ぞろいです。それぞれの背景や”メッセージ”に思いをはせながら、ゆっくり歩いてみませんか。


「ふらっと たがわ」は、福岡県田川市の意外に知られていない”横顔”や地域の魅力を紹介するコーナーです。

バックナンバー
1. はじめての田川まち歩き 昭和がかおる人情商店街をみつけた
2. 田川の元気を廃校から発信!「いいかねパレット」で弾ける笑顔
3.「月が出た出た 月が出た」 旧炭都・田川を照らす夜景を巡る


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