古墳形の墓地が人気の新宮霊園 訪ねて知った令和のお墓事情

樹木葬の墓石の先にある前方後円墳形の墓

記事 INDEX

  • 「土に還る」を望む声
  • 変わる家族のかたち
  • 時代の要請に合わせ

 「日本初」をうたう古墳の形をした永久墓が注目されている。前方後円墳を模した墓があるのは福岡県新宮町の新宮霊園。10月中旬、霊園を訪ねて話を聞くと、古墳形の墓をつくるまでの経緯や、令和のお墓事情の一端を知ることができた。

「土に還る」を望む声


前方後円墳のそばには様々な埴輪が置かれていた


 前方後円墳は全長53メートル、高さ3.5メートル。小高い丘からは、緑ゆたかな町並みと、その先に広がる玄界灘が望めた。手入れされた芝が墓全体を覆い、古墳時代に死者の魂を鎮めるために置かれたという埴輪(はにわ)が40体ほど並んでいる。


遠く玄界灘を望む高台にある


 新宮霊園に前方後円墳が登場したのは2022年。この例のない形態が世間に受け入れられるのか、当初は不安だったそうだ。初年度300人分を目標に区画の販売を始めたところ、1年で900人分の契約が成立し、現在は追加販売の順番待ちなのだという。全国各地の霊園からも注目され、見学が相次いでいるとのことだ。


綿で作られた納骨袋での埋葬も可能だ


 古墳の斜面に割り当てられた1人分の区画は30センチ四方。表面から15センチほどの納骨室に骨壺(こつつぼ)を納める。骨壺を用いずに、綿で作られた納骨袋で埋葬する方法も案内している。遺骨は100年単位の長い時間をかけ、微生物が分解して土に還(かえ)るそうだ。7割の人が後者を選ぶという。


古墳の斜面には、故人の墓の場所を示すプレートが


 価格は1人28万円で、永久管理費が別途7万7000円。月に1回、合同法要を営んでおり、霊園がお墓の管理の一切を約束している。ちなみに"家族割"もあり、夫婦や子どもだけでなく「孫の分も一緒に」と、10人分の区画を申し込んだ人もいるそうだ。


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変わる家族のかたち


真上から撮影した前方後円墳形の墓(新宮霊園提供)


 なぜ古墳の形に? 多様性が求められる中、お墓の新しいスタイルを提案できないか――という思いが出発点だった。土に還る自然葬を望む声も以前から根強かった。古くから大陸との交流があった九州北部には多くの古墳が残り、沖ノ島と関連遺産群(福岡県宗像市、福津市)が世界遺産に登録されたことも決断を後押ししたという。


緑が広がる八女市の岩戸山古墳


 建設を前に、国指定史跡・岩戸山古墳などがある「八女古墳群」(福岡県八女市)を実地調査した。霊園内の別の場所に類似の古墳を試作するなど3年をかけて慎重に計画を進めたそうだ。


手入れが行き届かなくなった墓も


 さらに、現代のお墓事情について話を聞くと、家族のかたちや考え方の変化が、お墓のあり方にも深く影響していることが分かった。古墳形永久墓を見学するのは40~70歳代の人が多い。非婚や少子高齢化で、お墓を引き継ぐ人がいないケースが増え、のちの世代に墓守の負担をかけたくないと考える層が広がっているという。


様々な"お墓のかたち"が模索されている


 お墓を引っ越す「改葬」や、更地に戻す「墓じまい」で問題が生じることも。親族間で意見が一致しなかったり、決断を急いで後悔したり、離檀料を巡ってお寺とのトラブルに発展する場合もあるようだ。


遺骨が埋められた古墳の上部で故人をしのぶ女性


 将来世代の負担やトラブルを避けるためにも、納骨後の管理の一切を霊園側に委ねる永久墓に目を向ける人が増えているらしい。


墓のそばには、遺骨の場所を示す銘板がある


 母親の墓参りに福津市から夫婦で訪れていた岩下守治さん(71)は、「墓じまいなどで子どもに迷惑をかけたくないから」と古墳形の墓を選んだ。亡き母が好きだった桜の木に囲まれていることも決め手になったそうで、「一人では寂しかろうと、私たち夫婦も横並びに購入しました」。


時代の要請に合わせ

 前方後円墳の背後にある高台には、2022年に庭園型の樹木葬エリアを設けた。従来のどっしりした墓石ではなく、小さくて色彩豊かなプレート型の墓が並んでいる。


樹木葬の墓地からは前方後円墳や玄界灘が見渡せた


 霊園によると、「先祖と一緒に」ではなく、「自分たち夫婦で」と小さなタイプの墓石を求める人が15年ほど前から増えているという。家名や名前のほか、墓石をキャンバスに見立て、イラストやメッセージを添えたものが多く見られた。


「きてくれて ありがとう」


 「ありがとう」をはじめ感謝を伝える墓石が並ぶ中、似顔絵やビールを描いたものも。みんなはどんなメッセージを残したのだろう――と、その言葉を選んだ背景を想像しながら霊園を散策する人もいるそうだ。


樹木葬の墓石には、様々なメッセージが刻まれていた


 仏壇・墓石販売の大手「はせがわ」による2024年の実態調査によると、一般墓と永代供養墓の受注割合がこの3年で逆転したとのことだ。複数回答のアンケートで、墓を購入しようとする人の9割近くが樹木葬・納骨堂といった永代供養墓を検討しているのに対し、一般墓は5割弱という結果だった。


お供えの花が墓石に映し出されていた


 「従来の墓のかたちを残しながら、令和ならではの供養の場として、前方後円墳や樹木葬など、時代の要請に合わせた聖域のかたちを提案できれば」と霊園の担当者は話す。前方後円墳に続く第2弾も考えているといい、ピラミッド形や、お堀を備えた円墳の案も出ているそうだ。


「時代の要請に合わせた、様々な聖域のかたちを提案できれば」



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