西鉄天神大牟田線14年ぶりの新駅 「桜並木駅」の周辺を歩いた
記事 INDEX
- 戦時中の「防火街路」
- 地元の思いが駅名に
- ビルの上に警報機!?
開業100周年を迎えた西鉄天神大牟田線。3月中旬には雑餉隈(ざっしょのくま)―春日原駅間に、14年ぶりとなる新駅・桜並木駅(福岡市博多区)が開業した。ピンク色に彩られた桜の木々が青葉にかわる時節を過ぎ、「新しい駅がなじんできた」という声も地元で聞かれるようになった6月のおわり、カメラを手に周辺を歩いた。
戦時中の「防火街路」
雑餉隈駅の南約500メートルに位置し、天神大牟田線で駅間が最も短い桜並木駅。「地元の人たちの長年の希望が形になった新駅」と、西日本鉄道(福岡市)は駅の名前を今回初めて公募で決めた。
駅名の由来となったのは、福岡市博多区春町周辺の桜並木。全長約600メートル、幅18メートルの通りに、約120本が咲く。新駅開業の半月後には、門出を祝うかのように、満開の桜がピンクの回廊をつくった。今は、豊かな緑が並木道を彩っている。
那珂南校区自治協議会会長の高原元さん(75)は、幼い頃から桜並木を見て育った。戦前は、周辺に基地や航空関連の軍需工場などがあり、「真っ先に敵から狙われる場所」と警戒されていたという。そのため、火災の延焼を防ぐための「防火街路」が設けられ、「緊急時には戦闘機の離着陸もできた」と聞いていたそうだ。
戦後、手つかずのまま荒れてしまっていた防火街路。「ここに桜を植えれば、地域の憩いの場所になるのでは」という声が上がり、住民が寄付を募って1957年、桜の植樹を始めた。30~40年前には道路拡張のために、福岡市が並木の一部撤去を検討したものの、住民らの強い反対で見送られた経緯もあるとのことだ。
地元の思いが駅名に
駅の名称には地名が入るのが鉄道業界の常識という。西鉄によると、ネットやはがきで3388人から寄せられた新駅名の公募には、周辺の地名「春町」「竹丘」のほか、「桜」などの案も寄せられた。地元と協議して、応募が最も多かった「桜並木駅」に決まったそうだ。地域住民がずっと手入れを続け、大切に育ててきた桜並木――。新しい駅も街の人たちに長く親しまれてほしいとの願いが込められているという。
一方で、高原さん自身は「ここは福岡市の南の玄関口だから、JR九州と同じ名前にはなるが『西鉄・南福岡駅』が良いのでは」と考えていたそうだ。「桜並木駅」としてスタートした今、「明るいイメージで、一番いい名前」と笑顔を見せる。
ビルの上に警報機!?
周辺は踏切による交通渋滞に、長く悩まされた場所でもある。新駅整備と並行し、2003年から行われてきた連続立体交差事業により、全19か所の踏切が姿を消した。
並木道と線路に面したビルには、知る人ぞ知る”不思議スポット”が誕生した。高架工事で撤去された踏切警報機が、屋上付近に設置されている。仕掛け人はビルを管理する白水清裕さん(43)だ。
使用されなくなり、ブルーシートで覆われた警報機。「生まれ育ったこの地に、かつて線路があった証しを残したい」という気持ちから、「譲ってほしい」と西鉄側に伝えた。無理だろうと期待はしていなかったが、相談していた高原さんの口添えもあり、希望がかなった。クレーンでつり上げてビルの上に設置したことで、高架上と同じ目線になり、警報機のそばを電車が走り抜ける光景が”復活”した。
「さすがに運転士さんはすぐ見つけたようです」と白水さん。乗客のほとんどは気づいていなかったようだが、SNSなどに投稿され、最近は車内から指をさして驚いたり、写真に収めたりする姿も見られるようだ。
地元住民がつくった花壇や季節の花々が癒やしを与えてくれる並木道。小雨交じりの雲の下、遊歩道を望遠レンズでのぞくと、日が照っていないにもかかわらず、木の影でしま模様が描かれていた。
まもなくセミが大合唱を始め、桜の時期とはひと味違う“にぎやかさ”に包まれる小道。緑の葉はやがて秋の色に染まり、落ち葉のまわりにガラス細工のような霜がつく冬へと――、住民たちが愛する「桜並木」の季節は移ろっていく。