静かなブーム「現代短歌」 SNS世代が詠んで共感
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記事 INDEX
- 31音で広がる世界
- 受け皿も多様化
- ゲームでより気軽に
現代短歌が静かなブームだ。31音で表現するスタイルがSNSに慣れた若い世代になじみ、コロナ禍でつながりや共感を求める気持ちが高まっていることも追い風となっている。
31音で広がる世界
福岡市西区の西部地域交流センターの和室で11日、九州大の学生らでつくる「九大短歌会」の4人が歌会を開いていた。事前に募った7首を読み上げ、意見を交わした。
<戻っても多分上手(うま)くはいかないよ前だけ向いて歩けばいいさ>
(大学院博士課程1年 上野虎太郎さん)
「タイムリミット」がテーマのこの1首について、「過ぎた時間に視点を置いているところが面白い」などとコメントしたのは文学部3年の長尾義明さん(20)だ。短歌を始めたのは大学入学後、コロナ禍でサークル勧誘もない中、オンライン歌会の案内を見たのがきっかけ。「31文字から世界が広がる。想像を超える見方をする人もいて、気づきがある」と魅力を語る。
2011年に発足した九大短歌会のメンバーは現在15人ほどで、作品集「九大短歌」も年2回発行している。代表で文学部3年の山下拓真さん(22)は、日頃思いついた言葉をスマホに記録して短歌を作っており、SNSのツイッターでつぶやくのに似ていると感じるそうだ。「勉強で忙しい中での息抜き。もやもやした気持ちが短歌を作ることで消化される」とほほえむ。
受け皿も多様化
福岡市の福岡女学院が2014年から毎年開催している短歌コンクールは、「今をうたう」をテーマに小中高校生と一般の4部門で募集。初回の応募数は2551首で、若い世代を中心に年々増加し、昨年は過去最多の1万6109首だった。昨年の高校生部門最優秀賞には、<サスペンス見ている途中に宅配便なぜか私も刺される覚悟>(北九州高専、稲田太陽さん)が選ばれた。今年も募集中だ。
歌人で福岡女学院大准教授の桜川冴子さん(60)によると、増加の背景には、SNSで気軽に作品を発表できるようになったことや、大学生の短歌会や高校生が詠み合う『短歌甲子園』の盛り上がりがある。コロナ禍も創作に結びついており、「苦しい時こそ作品が生まれやすいし、人に会えなくても、思いを表現したり、作品に共感したりすることでつながりが得られる」と説明する。
本格的な創作に乗り出す人の受け皿もある。福岡市の出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」が2013年に始めた「新鋭短歌シリーズ」は、公募や推薦で歌人を募り、その初歌集を編む企画で、2月までに60冊を発行した。
従来、歌人の団体「結社」に所属して歌集を出すのが一般的だが、近頃は結社に属さない歌人も増えている。シリーズにはツイッターで短歌に出会って詠み始めた歌人もおり、同社代表で詩人の田島安江さん(76)は「SNSの広がりもあって『読む人』と『詠む人』の距離が近くなり、次々と若い感性の作品が生まれている」と話す。
ゲームでより気軽に
短歌をより気軽に楽しめるゲームも登場している。
昨年7月発売のカードゲーム「57577(ゴーシチゴーシチシチ)」(幻冬舎、1760円)は、5音と7音の言葉が書かれたカード計108枚を組み合わせて短歌を作る。4億通り以上作れるそうだ。
歌人のなべとびすこさんと天野慶さんが、原案とゲームデザインを手掛けた。昨年9月、小学3年の女の子が作った<雨の中 君と出会った 放課後に 行けたら行くわ タイムマシンで>という作品を父親がツイッターに投稿し、20万を超える「いいね」が付いて話題となったという。
書店やネットショップで販売し、今年5月末までに約3万セットを発行。幻冬舎の担当者は「なじみのなかった人たちが短歌に親しむきっかけになれば」と話している。
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