脇役だって個性豊か 顔や姿を見比べながら「狛犬巡り」がじわり人気
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- よく眺めればアート
- 多彩で豊かな郷土色
- ツアーや番組も人気
神社やお寺の狛犬(こまいぬ)は、脇役ではあるけれど、格好良かったりゆるかわいかったりと個性豊か。顔や姿を見比べて楽しむ人も増えている。
よく眺めればアート
福岡観光コンベンションビューロー(福岡市観光案内ボランティア)は福岡市の博多、天神両地区で狛犬を巡るまち歩きを行っている。6月中旬、ガイドの野村郁明さん(69)が案内してくれた。
訪れたのは博多区の櫛田神社で、門などに8対もの狛犬の像がある。
「古くから栄えた博多の町の人たちが、度々奉献したためです」と野村さん。実は狛犬とは、神殿側から見て左側の獅子と右側の狛犬のペアの総称で、犬ではなく「霊獣」なのだそうだ。
南神門の真っ白い狛犬は石造で、台座には明治33年(1900年)と刻まれ、太い眉や団子鼻が優しそう。中神門も石造で、「再興 昭和19年」とあるのは元は金属製だったものが戦時中に供出されたという。楼門表は、盛り上がった胸と長い足がドーベルマンのよう。「後ろ姿もみどころ」と聞いて背後に回ると、しなやかな背中や立体的な尻尾がゴージャスだ。
この日は神社周辺も巡り、大玉に乗った狛犬(東長寺)などを見た。狛犬巡りは観光客の要望がきっかけで2018年に始め、毎回すぐ定員に達するそうだ。野村さんは「歴史を知って見ると楽しく、よく眺めればアートです」と力を込める。
多彩で豊かな郷土色
明治大教授で民俗学者の川野明正さんによると、狛犬の起源は古代メソポタミアのライオン像に遡り、3世紀頃に中国から伝来した獅子が9世紀頃から日本で独自に発展した。神や高貴な人を守る存在として宮中や神殿に像が置かれ、江戸時代初期には参道に設置されるように。「各地の石工が自由な発想で造ったため、多彩で郷土色も豊かです」と説明する。
人面風の「仙台狛犬」、耳が垂れた「出雲狛犬」など地域ごとの特色がある中、川野さんの一番お気に入りが佐賀県を中心に分布する「肥前狛犬」。16~18世紀に造られ、デフォルメした愛嬌(あいきょう)のある姿が特徴的で、福岡県筑後市の水田天満宮や田川市の白鳥神社などにあり、糸島地区でも見られる。
ツアーや番組も人気
「ご朱印ブーム」で寺社を訪れる人が増えたことなどを背景に、狛犬への関心はじわりと高まっている。
筑後市観光協会は2020年3月に狛犬ツアーを開催し、リクエストに応じて案内人がガイドする。太宰府市の九州国立博物館は14年に狛犬の「目撃情報」を全国に募り、画像を公式サイトで公開中だ。
県外でも、福島県南地域では「狛犬カード」やマップを作成して観光資源としてPR。山口県のケーブルテレビ「シティーケーブル周南」などが17年から放映する「狛さんぽ」は、県内の狛犬を巡り歩く人気番組という。
20年にガイド本「狛犬さんぽ」(グラフィック社)を出版したライターのミノシマタカコさん(東京)は、「マンホールの蓋など、マニアックさが注目される流れの中にあるのでは」と分析。SNSにも大量の狛犬画像が投稿されており、「好みの狛犬が全国のどこかにきっと見つかりますよ」と勧める。
各地にユニーク狛犬
川野さんから、福岡県内にあるユニークな狛犬を教えてもらい、訪ねてみた。
北九州市八幡西区の杉守神社には、石段の途中に「灯籠狛犬」が鎮座する。明治28年奉納。口を開けた「阿像」は頭の上に灯籠がのっていたと思われる。口を閉じた「吽像」は、おしりを上に突きあげた姿が個性的だ。
水巻町の役場近くにある伊豆神社には、なんと逆立ちした狛犬が。しかも、看板によると、男根に触れると「子宝にめぐまれる」との言い伝えがあるそうだ。
飯塚市の彦穂神社には、大きな玉に体をほぼ完全に乗せた「全玉乗り狛犬」。「阿像」と「吽像」の位置が通常とは逆のようだ。
同神社の境内にある須佐神社にも狛犬が鎮座しており、こちらはにっこり笑ったような表情と大きな口に親近感がわく。
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