【熊本】半世紀ぶりに阿蘇山火口北西側開放へ 7月にも

 阿蘇山・中岳の第1火口を望む北西側の新しい見学エリアが、早ければ7月にも開設される見通しとなった。約半世紀ぶりとなる火口北西側の一般開放に向け、熊本県阿蘇市などでつくる阿蘇火山防災会議協議会が6月14日、現地を視察し、避難施設の状況を確認した。同市などは、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ観光誘客の浮揚につながるとみて、期待感を強めている。


Eゾーンを視察するメンバー(阿蘇火山防災会議協議会提供)

新見学エリア

 「安全対策をしっかりととる。多くの人に阿蘇観光を楽しんでもらいたい」

 火口北西側の新見学エリア・通称「Eゾーン」の視察を終え、同協議会の高木洋事務局長(阿蘇市総務部長)は意気込みを語った。7月4日に協議会の会合を開き、問題がなければEゾーンの一般開放を正式決定する。


メンバーが視察したEゾーン(阿蘇火山防災会議協議会提供)

 中岳第1火口は普段、火口南東にある通称「Bゾーン」と呼ばれるエリアから見学できる。難点は、斜面がせり出した箇所があり、火口の底までは見えにくいことだ。昨年11月に観光で訪れたフランス人女性(32)は、「もうちょっと活発な火山の様子が見えると思ったけど。少し残念です」と複雑な表情を浮かべていた。

 見学可能な日数が少ないという問題もある。Bゾーンには、北風に吹かれて火山ガスが流れ込むため、火口見学ができる日は年間で6割程度にとどまる。観光客が火山の胎動を間近にすることを楽しみに訪れても、見学できない「空振り」になることが多い。

 阿蘇市観光課の岡本幸泰係長は「せっかく阿蘇に来てもらったのに、見学ができなくて残念という思いを観光客にさせていた」と唇をかむ。旅行業者が阿蘇観光を修学旅行などに組み込みにくい要因にもなっていた。

避難施設など整備

 火口見学の眺望をバージョンアップしながら、見学可能日数を増やそうと、県や市は約1億3600万円をかけ、道路の舗装や転落防止用の柵、ガス検知器、退避壕(ごう)の整備を進め、ほぼ完成した。

 火口北西側に位置するEゾーンからは、直下で火口のほぼ全景を望み、「シュー」「ゴー」といった噴気孔から出る音を聞くことができる。エメラルドグリーンの「湯だまり」が火口の底に見えていた時期もある。


Eゾーンから見た中岳第1火口(2018年撮影、阿蘇市提供)

 火口北西側は1979年に死者3人を出した噴火以降、立ち入り禁止となっていた。Eゾーンは火山ガス濃度が基準を超えるなど、Bゾーンが見学できない場合に開放する予定。見学できる日は合わせて年間8割程度に増える見通しだ。火口から約1キロ離れた阿蘇山上ターミナルとEゾーンとの間で観光客を送迎する専用バスを運行する。

 2016年の熊本地震の前まで、阿蘇の火口見学には年間約80万人が訪れた。外国人客が7割を占めているだけに、県内のインバウンド(訪日外国人客)への波及効果は大きい。阿蘇市観光課の秦美保子課長は「何といっても圧倒的なエナジー。視覚だけでなく、音や響きで阿蘇の雄大な自然を体感してほしい」と話した。


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