【大分】湯平温泉街「つるや隠宅」 観光施設として再出発

 2020年7月の九州豪雨で犠牲になった一家が大分県由布市の湯平(ゆのひら)温泉街で営んでいた旅館が2月29日、新たな観光施設「石畳の驛(えき)つるや」として生まれ変わった。地元観光協会が「地域のために、ともに汗を流した仲間がいた証しを残したい」と復活させたもので、旅館の名も受け継がれた。

豪雨の犠牲になった仲間を胸に


観光施設として再出発する「石畳驛つるや」


 亡くなったのは、旅館「つるや隠宅(いんたく)」を経営していた渡辺登志美さん(当時81歳)、娘夫婦の知己さん(同54歳)と由美さん(同51歳)、孫の健太さん(同28歳)の家族4人。車で避難中、増水した川に流されたとみられている。

 中でも健太さんは大分弁のPRキャラクターを生み出し、コスプレーヤーの撮影会も企画。情緒豊かな石畳の急坂で知られる温泉街の未来を担う若手経営者として期待されていた。

 あるじを失った旅館は廃業を余儀なくされたが、建物は土台の一部が流失する程度の被害にとどまった。観光協会は、復興を象徴する施設にしようと遺族側に買い取りを打診し、快諾を得た。寄せられた浄財も充てて改修を進めてきた。


内覧する関係者

 施設は木造2階建て。温泉街には近くにコンビニやスーパーなどがなく、宿泊客らから要望の多かった土産物店を設けた。地元産の和菓子やせんべい、アイスなどで、ほかにも飲み物やお菓子、お酒、歯ブラシやマスクといった日用品を取りそろえた。


「男はつらいよ」の寅さんのパネル


 観光案内所や休憩所としても活用する。

 休憩所には、温泉街が映画「男はつらいよ」のロケ地となった縁で、被災後に贈られた主人公・寅(とら)さんの等身大パネルを置いた。撮影された作品は1982年公開の「花も嵐も寅次郎」で、パネルには山田洋次監督のほか、田中裕子さんと沢田研二さんが直筆で書いた「湯平温泉頑張れ!」などのメッセージが添えられている。2階部分の活用方法は今後、検討する。


土産物売り場の前で取材に応じる麻生理事

 3月1日のオープンを控え、2月29日午前の記念式典には約10人が出席した。地元住民や県、市の関係者を集めた内覧会も行われ、観光協会の麻生幸次理事(55)は「観光客も戻ってきており、(施設の)開所をきっかけに前に進んでいきたい。天国の渡辺さんも『頑張って』と言ってくれていると思う」と語った。


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