JR九州の新しい観光列車が誕生 車両の個性に磨きをかけて旅の魅力を「ぷらす」
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JR九州(福岡市)の新しい観光列車「36ぷらす3(さんじゅうろくぷらすさん)」が10月16日に運行を始めます。完成した車体が小倉総合車両センター(北九州市)で報道関係者に公開されました。豪華寝台列車「ななつ星in九州」のデザインを手がけた水戸岡鋭治さんの手で生まれ変わった車両の魅力を紹介します。(文:橋谷信吾 写真:大野博昭)
水戸岡さんの手で再び輝く
まずは名前の由来から。九州が世界で「36番目」に大きな島であることと、乗客、沿線住民、JR九州の「3者」が一つになるという願いを込めてつけられました。36と3を足すと39になり、「サンキュー(ありがとう)」のメッセージも込めています。
車両は、特急「つばめ」として博多―西鹿児島駅(当時)を走った787系を改修しました。1992年に登場した「つばめ」は、グレーメタリックのシックな外観、半個室の座席やビュッフェなどのデザインが画期的で、「ブルーリボン賞」を獲得し、国際的な鉄道デザイン賞「ブルネル賞」にも輝いた"名車"です。
787系は、水戸岡さんが新車のデザインを初めて任された車両でもあります。一新された「36ぷらす3」を披露した9月29日、水戸岡さんは「新しい車両をデザインするのはすごく楽しいけど、持続可能性の重要性が増す中で、約30年前の車両をもう一度よみがえらせるのは幸せなことでした」と作業を振り返りました。
黒いメタリックボディーは、光の当たり具合や見る角度で列車の印象を大きく変える効果があります。金色の装飾が加わることで重厚さを演出し、立体的な787系の造形をより際立たせます。
和と洋の美が同居する車内
窓枠や壁には、家具産地として知られる福岡県大川市の職人の技が光る大川組子を採用しています。一方で、ソファやカーテンには、現代的なデザインが多用されており、和洋折衷の美を体現しています。
100人近い報道関係者を最も驚かせたのが、1号車と6号車の床に採用されている畳です。熊本県八代産のイ草が使われています。靴を脱いで入る客車で、下駄箱も備えてあります。真新しい畳の香りが心地よく、安心感を与えてくれます。
つばめ時代に親しまれたビュッフェが17年ぶりに復活です。ドーム式の天井は当時のまま、開放感のある空間に。九州の地酒、焼酎、蒸留酒も販売し、カウンターの内側では水戸岡さんデザインの制服を着た客室乗務員がもてなしてくれます。
光る個性で九州をアピール
九州の観光は、新型コロナウイルスの影響に豪雨災害が重なり、大きな打撃を受けています。JR九州の青柳俊彦社長は車両公開の式典で、この新しい観光列車を「起爆剤に」と熱い思いを語りました。
赤字路線が多いJR九州にとって、みんなが驚くような観光列車を九州各地に走らせ、沿線を豊かにしていくことが、経営上の重要なテーマです。青柳社長は「コロナが収束すれば、九州の魅力を、日本全体そして世界にアピールしていく列車になる」と自信をのぞかせます。
7月の豪雨で肥薩おれんじ鉄道が被災したため、ルートを見直しました。木曜に予定していた博多―鹿児島中央間の運行を当面見合わせ、金曜に鹿児島中央―宮崎、土曜に宮崎空港―別府、日曜に大分―博多、月曜に博多―長崎を走ります。
「36ぷらす3」で旅する魅力のひとつが、車内での食事です。九州各地の有名店が手がけた特製弁当付きの乗車券が販売され、料金はランチプランの1万2000円(大人1人)からです。