「新・田川紀行」刊行 田川地域の”物語”を60人が執筆
福岡県の田川地域8市町村の地理や歴史、文化を体系的にまとめた、442ページに及ぶ大著「新・田川紀行」(A4判)が、田川広域観光協会(菅原潔理事長、福岡県田川市)から刊行された。各分野の研究者や専門家計60人が執筆陣に加わり、学術性とともに、中学生から理解できる分かりやすさを追求したという。編集委員会は「大きな時代の流れの中で捉えた地域全体の『物語』を重視して構成した。田川の学びの書として、幅広い層に読んでほしい」と話している。
刊行は、同協会の佐渡文夫・名誉会長が発案し、2022年の設立10周年を記念して取り組みが進んだ。
20年12月に編集委員会が発足し、委員長に元小学校長で田川郷土研究会長の中野直毅さん(69)が就任。委員には長谷川清之・田川市文化財専門委員会委員、岩本教之・添田町文化財専門官、森本弘行・元田川市石炭・歴史博物館副館長、桃坂豊・県文化財保護指導委員の4人が就いた。
委員は自ら専門分野の原稿を書いたほか、執筆者の人選、寄稿と各種資料の照合などの校正作業を担った。作業には委員と親交のある学識者も個人の立場で携わった。
歴史・文化を体系的に
同書は「観光・道の駅」「自然・地理」「田川の古代」「中世」「近世」「近代」「近現代と文化」「伝説・地名・民話」の8章で構成。カラー写真や図、挿絵なども多用し、挿絵の多くは画家で前田川市美術館長の是沢清一さん(91)が手がけた。巻末には文化財マップなどの資料と索引を付けた。
歴史の事象については、出典や学説を明示し、校正も経ることで信頼性の確保に努めた。田川郷土研究会は18年に田川市立図書館と「筑豊田川デジタルアーカイブ」を開設するなど、資料のデジタル化と索引づくりを進めているが、今回の刊行に際してその蓄積が照合のスピード化などに生きた。
分かりやすさ追求
楽しく読める工夫も凝らした。歴史の解説では、江戸時代に初めて実測で日本地図を作った伊能忠敬や、ドイツの鉄道技術を日本に伝えたヘルマン・ルムシュッテルといった人物と、田川地域の関わりに焦点を当てて物語性を前面に出した。項目ごとに関連する別ページや、デジタルアーカイブなどのQRコードも掲載し、時代の流れを概観できるようにした。
中野さんは「各市町村史と一線を画し、より広域で育まれた文化的価値をひもとく唯一の本になったと自負している。読めば、炭鉱だけでない田川の歴史の奥深さ、ロマンを実感してもらえると思う」と話す。
同協会は2000冊を刊行。うち600冊を県内の図書館や大学、田川地域の小中学校、高校などに寄贈し、残りの1400冊を事務局で1冊5000円(税込み)で販売している。問い合わせは同協会(0947-45-0700)へ。