一面の銀世界! 田川市にある国内首位の漆喰工場に潜入した

白銀の世界が広がる工場で、漆喰のロングセラー商品「城かべ」を手にする岩田さん

記事 INDEX

  • 100年続く歴史と技術
  • 「白ダイヤ」が化学反応
  • 可能性をさらに追求!

 雪が降り積もったかのような銀世界――。1924年(大正13年)創業の「田川産業」(福岡県田川市)は、建物の壁材などに用いられる漆喰(しっくい)の製造で国内最大手です。工場内は、原料となる石灰の粉で白く染められ、その長い歴史を物語ります。なかなか目にできない生産現場を、同社営業部の岩田優さんが案内してくれました。

100年続く歴史と技術


 漆喰は古くから、城や武家屋敷などの壁に塗られていました。田川産業は石灰石から最終製品まで自社工場での一貫生産を続けています。


白く染まった建屋内が長い歴史を感じさせる


 主原料の消石灰は、加熱した石灰石に水を加えることによって起こる化学反応で作ります。消石灰と、海藻を炊いて抽出した「海藻糊(のり)」、麻などの繊維「スサ」を調合すると漆喰ができます。

 海藻糊は保水のため、スサはひび割れ防止に。漆喰は空気中の二酸化炭素と反応して硬くなります。岩田さんが「年月がたつほど硬化するので『生きる壁』とも呼ばれます」と説明してくれました。


銀杏草から海藻糊を抽出する


 以前は、これらの材料を左官職人が現場で混ぜ合わせていました。同社は1964年、水を加えるだけですぐに使える漆喰を全国で初めて開発。その手軽さが受け、約60年前に発売した「城かべ」は多くの職人に愛されるロングセラー商品になりました。


 さらに使いやすさを追求した「NURI²(ヌリヌリ)」は、既に水も混ぜて練り込んだ商品。開封すればそのまま使え、DIYでも重宝されているそうです。


使いやすさを追求した「NURI²」

 同社の漆喰は、小倉城や熊本城、世界遺産の「旧グラバー住宅」、国宝「大浦天主堂」などの修復にも用いられました。大阪城の大改修でも「100年後の改修時までもつ」との評価を受け、採用されています。


advertisement

「白ダイヤ」が化学反応

 田川産業は、今も石灰石の採掘が続く船尾山の近くにあります。「ダイヤのように価値があります」と、岩田さんが石灰石を見せてくれました。田川市では「黒ダイヤ」と呼ばれた石炭と並び、石灰石も「白ダイヤ」として地域を潤わせてきました。


コンベヤーで窯に運ばれる石灰石やコークス

 工場では地元産の石灰石を使い、コークスや塩と一緒に窯に入れて1000度で加熱します。すると石灰石から二酸化炭素が抜けて生石灰に変化します。


頭上のコンベヤーで生石灰が工場内に運ばれる

 この生石灰に水を加えると、消石灰になります。岩田さんがコンベヤーの生石灰を拾い上げ、「不思議な反応が見られますよ」と水をかけました。すぐに「シュー」という音が聞こえ、熱と水蒸気を出しながら石が膨張していきます。ひびが入り、パラパラと崩れ、最後は粉状に。「これが消石灰です」。岩田さんが教えてくれました。


可能性をさらに追求!

 漆喰は抗菌や防カビに優れているほか、目に見えない無数の孔(あな)があり、ニオイ成分を吸着したり、湿度をコントロールしたりする機能があります。

 同社は、優れた機能を備えた漆喰を広めるため、現代の建物のデザインにも合う新商品を2003年に開発しました。それが、漆喰を使ったタイル「Limix(ライミックス)」です。


イチョウの葉を埋め込んだり(左)、和紙をイメージしたり、様々な装飾も可能なタイル


 Limixは焼かずに作る世界初の漆喰タイル。真空の状態で消石灰の粉に約4000トンの圧力をかけて板状に成形し、炭酸ガスを吹きかけることで、大理石のように硬いセラミックになります。装飾もしやすく、「グッドデザイン賞」などを獲得しました。


木目調の模様もつけられるなど、デザイン性も高い

 この漆喰タイルは、東京の商業施設「渋谷ヒカリエ」や、関西地区の百貨店など、多くの人でにぎわう施設で採用されています。

 田川産業は11月に創業100年を迎えます。大型連休には工場敷地にショールームを開設する予定で、「日本の伝統的な建材・漆喰の魅力を地元から発信し続けたい」と岩田さんは力を込めます。


advertisement

この記事をシェアする