「最後の看板画家」中村高徳さんが魂の一作 念願の博多座に

絵看板の前に立つ(左から)中村さん、市村さん、鳳さん

 かつて多くの映画館があった福岡市・中洲の往時の風景を思い起こしてもらおうと、同市博多区の博多座が5月8日、映画館でおなじみだった絵看板を初めて設置した。制作したのは、同市の最後の看板画家といわれる中村高徳さん(80)(福岡市早良区)。これまで中洲や天神で、1000点を超える作品を手掛けており、「博多座に飾られるのは念願だった」と筆をふるった。

中洲や天神で1000点超の作品


かつて手掛けた作品のアルバムを見ながら、当時を振り返る中村さん


 中村さんは長崎県出身。17歳で博多区の看板画家に弟子入りした。師匠や先輩の絵を見て技を覚え、28歳で独立し、中洲や天神の映画館で洋画を中心に描くように。「海水浴場や初詣時期の神社。目立つ場所への依頼が色々とあった」と振り返る。絵看板はベニヤ板にペンキや水彩絵の具で描かれ、映画の公開期間が終わるとすぐに次の作品に塗り替えるため、写真に撮ってアルバムに残した。


福岡市・天神の映画館近くに設置された「キングコング」をかたどった絵看板(中村さん提供)


 時代とともに映画館や絵看板の需要は減り、中洲にあった「福岡ピカデリー」が閉館した1998年の喜劇映画「ビーン」で依頼は途絶えた。商店の看板などを制作して生計を立てる中、2023年、同区の「ユナイテッド・シネマキャナルシティ13」で上映された「インディ・ジョーンズ」シリーズの最新作で久しぶりに絵看板を制作。これが今回の博多座からの依頼につながった。


「手描きの温かみ感じて」

 今回、手掛けたのはミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の公演ポスターを基にした絵看板(縦2.1メートル、横2.7メートル)。1か月ほどかけて、温かみのある夕日を背景に、主演の市村正親さんと鳳蘭さんが寄り添う姿や、細かい英語のクレジットなどを描き込んだ。肌の陰影や表情、髪の毛や眉毛の一本一本、衣装のしわなど細かな部分にもこだわった。


「屋根の上のヴァイオリン弾き」の絵看板の仕上げをする中村さん


 8日に開かれた完成披露除幕式で、絵看板を見た鳳さんは「魂が込められていて深みがある。舞台と絵看板で二重の感動をしていただければ(うれしい)」、市村さんは「絵看板に恥じないような芝居をしなければ、と身が引き締まる思い」と語った。


 中村さんは「制作できてとても光栄。間近で見て、手描きならではの温かみを感じてもらえたら」と話す。

 絵看板は、18日までの公演期間中、博多座のエントランス前広場に飾られる。


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