文林堂×ハイタイド 活版印刷の魅力を発信する文具店がオープン
記事 INDEX
- インクの香り漂う店内
- つくる喜びを次世代に
- 活版印刷の体験も企画
福岡市城南区鳥飼で活版印刷を続ける「文林堂」の一角に、文具メーカー「ハイタイド」(福岡市中央区)が直営店を出しました。自社ブランドの手帳や筆記具、限定商品をそろえるほか、活版印刷のワークショップも企画して、”アナログの良さ”を発信します。担当者は「手作りの楽しさを伝える場所にしたい」と話しています。
インクの香り漂う店内
新しくオープンしたのは「HIGHTIDE STORE BUNRINDO」で、市地下鉄七隈線の別府駅から徒歩約5分の場所にあります。
文林堂は1972年創業。経営する山田善之さん(81)が活字による印刷物の製作や印刷体験などを行ってきました。両社は昨年12月に業務提携を結び、文林堂に設けた文具店から活版印刷の魅力を発信し、その技術や文化を次世代へ伝える「場」をつくることを目指しています。
文具店は印刷所の作業スペースを除く約25平方メートルを改装して入居し、6月22日にオープンしました。棚にはサインペンやボールペンといった筆記具、ノートやペンケース、小物入れなど300点以上の商品が並んでいます。
ハイタイドの店舗スタッフ・壱岐彩加さん(34)は「文具が好きな人にはきっと楽しい空間です」と、案内してくれました。
店にはポチ袋やメッセージカードといった限定コラボグッズも用意しています。文林堂のマスコット「Bunちゃん」の絵柄や「ありがとう」「おたんじょうび おめでとう」といった文字が活版でプリントされ、一枚一枚のわずかな凹凸の違いやインクのムラ、かすれなど手作業の風合いを楽しめます。
店内には古い印刷機や活字のケースも展示され、すぐ隣にある山田さんの作業場から、インクの香りが漂ってきます。
活版印刷のワークショップも開催予定で、ハイタイドのディレクター・永田悠宇さん(42)は「アナログな技術や文化を広く知ってもらう場所にしたい」と話します。
つくる喜びを次世代に
「活字や印刷機が博物館に展示されてしまうのだけは嫌だった。実際に活字を使ってつくりだす喜び、それを次の世代に残したい」。山田さんは思いを語ります。
年齢の問題もあり、一時は引退も考えていたという山田さん。昨年2月には、次の世代に技術を受け継いでもらおうと事業承継のマッチングサイトに登録しました。1か月ほどで50件以上の応募があり、ハイタイドもそのうちの一つでした。
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手作業による活版印刷は一度にたくさんの仕事を受注できず、収益も高くはありません。山田さんは「利益よりも文化として文林堂を残してくれるところを、と決めました」と話します。山田さんが面談などを行い、最終的にハイタイドが事業承継先の候補に決まりました。
その後、両者で話し合う中で、山田さんの仕事にほれ込んでいるファンが多いことも考慮し、事業承継ではなく、業務提携を結ぶことをハイタイドが提案。山田さんには印刷業を続けてもらい、ハイタイドは職人の手仕事を身近に感じられる文具店を開いて、技術や文化を伝えていくことになりました。
永田さんは「印刷業の専門ではないけれど、手にとって使ってもらう商品をつくるメーカーとして、山田さんの意思を引き継ぎたかった」と話します。
活版印刷の体験も企画
文具店では、活版印刷のワークショップを随時企画します。
講師となる壱岐さんは、昨年12月頃に山田さんに“弟子入り”しました。インクの延ばし方や印字の際の力加減など、今も技術の習得に励んでいます。1か月半ほど練習を続け、やっとコツをつかんできたそうで、店で販売するコラボ商品や方眼紙なども印刷しています。
壱岐さんは「手間がかかるほど愛着がわきます。訪れてくれた人に活版印刷の楽しさを教えたい」と話します。
「いろいろな人に活版印刷を知ってもらえる場所になった」と山田さんは店内を見渡しました。「手仕事は時間もかかるし失敗もする。人生と一緒です。完成したときは『作ってよかった』と、思いの詰まった感動が得られますよ」
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