デジタル時代に注目される手作業の味わい 「活版印刷」を学んできた【後編】


記事 INDEX

  • ブロック遊びの感覚で…
  • なにかが違う! 活版印刷
  • 説明できないその魅力

 福岡市城南区鳥飼の印刷所「文林堂」で開かれたワークショップに参加し、活版印刷への興味がさらに膨らんだ私は、店主の山田善之さんにお願いして印刷所を再訪しました。1960年代後半から1970年代半ばに最盛期を迎えたあと、新しい技術に主役の座を譲り渡した活版印刷ですが、デジタル化の波が押し寄せる現代社会で、手刷りの「味わい」や「ぬくもり」が再評価されています。活版印刷に長く携わってきた山田さんに、その魅力や思いを聞きました。

関連記事:デジタル時代に注目される手作業の味わい 「活版印刷」を学んできた【前編】


山田善之さん

1941年福岡市生まれ。父親から引き継いだ印刷会社「文林堂」を福岡市城南区鳥飼で1972年に再創業した。印刷の歴史や技術を伝えるため、講演や活版印刷の体験会など様々な活動に取り組んでいる。

暮らしの中に活版印刷があった


advertisement

――いつ頃からこの仕事をしていますか。

 10歳の頃から父の手伝いをしていました。家を助けないといけないと、率先して手伝っていたのを覚えています。子どもの私にとって、活字を拾ったり、版を組んだりする作業はブロック遊びみたいで楽しかったですね。小さい頃からやっていたから、手が覚えているんです。


活字ケース。縦書きに早く並べられるように活字は左に90度傾けてある

――仕事をするうえで大切にしていることは?

 お客さんがどんなものを作りたいのか、誰に渡したいものなのかを聞きます。名刺か年賀状か、本か招待状か。ウチで難しそうだったら別の業者を紹介することもある。どう表現すると作品が一番良くなるかを考えます。
 いまは、早く安くきれいに印刷できるし、頼む人と受ける人が顔を合わせずに仕事が成立する。内容に誤りがあっても「お客さんの入稿だから」と気に留めず作業を進める業者もありますが、それはねえ…。人間らしい仕事をしたいと思いますね。


advertisement

高性能では出せない人間味

――いままでの仕事で印象に残っていることは?

 活版印刷で作った名刺を、アドレスや電話番号が変わってもずっと使っている方がいますね。名刺の機能を果たせていないでしょう(笑)。ただ、これを相手に出すと、たいがい驚かれるそうです。「この名刺…なにか違う!」と。催事や展示の案内を作る仕事にも携わりましたが、普段はいらっしゃらない層のお客さんが集まるらしいんですよ。不思議ですね。



――改めて活版印刷の特徴ってなんですか。

 工程の一つひとつが手作業だから、手を動かして、頭を使って、時には失敗をして、どうすればうまくいくか工夫や調整をしますよね。そこに人間味が表れるんですかね。活字で刷ると、一文字、一文字読みたくなるんですよ。活版印刷が下火になってきた頃も、特に文章を書く人からの受注は続きましたね。伝えたいことがあるからだと思います。


間隔を調整しながら活字を並べる

――最近は活版を知らない世代の支持も増えています。

 これだけ便利な世の中だからこそ、手間がかかることに新鮮さを感じてくれます。近年は、図書館や市役所の協力もあって、周知されてきました。時代の中で失われつつあるものですし、私も5年先、10年先に同じようにできるか分かりませんから、機会を大事にしていきたいです。


advertisement

山田さんの活版印刷

――山田さんが思う活版印刷の魅力とは?

 これがね…どうも説明がつかないんですよ。

――これだけ長く携わっているのに!?

 そうなんです。人の手が加わった味わいみたいなものがあって、そこに何かを感じるんでしょうね。父の手伝いをしている頃から、文林堂に出入りしているお客さんを見ていましたけれど、みなさん表現をすることに命をかけていたんですね。内容を考え抜いて、完璧だと思って校正に回すんだけれど、印刷したら最後、当時はすぐに修正できるような簡単なシステムではないから「本当にこれが世に出ていいのか」と葛藤があるわけです。そこからさらに推敲に推敲を重ねる。結果的に、世に出るのは質の高いものが多かったように思います。それを間近で見ていたから、ものを作る人の思いに最大限に応えたい。


――時代を理由にせず、良いものを届ける気概を忘れたくないですね。今後はどのように考えていますか。

 プロセスを通らなくても、いまは手軽に結果が手に入る。けれど、その人でないとできないものは失敗や工夫の上にあると思います。私は活版印刷が好きです。受けた注文にも私なりの提案をしていきながら、みなさんに良さを伝えていきたいですね。


 山田さんの話を聞きながら、活字を拾って古い機械で印刷する工程を体験させてもらいました。効率よく行える作業はなく、一つひとつの工程にじっくり向き合いながら、考え、そして工夫することが求められます。活版印刷が再注目されている理由が少し分かった気がします。山田さんも、仕事場の雰囲気もゆったりとしていて、「世の中に置いていかれまいと、丁寧さまで忘れる必要はない」と言われているようでした。



advertisement

この記事をシェアする