デジタル時代に注目される手作業の味わい 「活版印刷」を学んできた【前編】

 書物が好きな人にファンが多く、いまも根強い人気がある活版印刷。福岡市城南区鳥飼にある印刷所「文林堂」で11月下旬、活版印刷のワークショップが開かれました。とにかく効率が追求される時代に、昔ながらの印刷手法が支持されている理由をこの目で確かめようと、ワークショップを見学してきました。


記事 INDEX

  • ワークショップが開かれた
  • 印刷って大変な仕事だった
  • デジタルでは出ない味わい

印刷の歴史にふれる

 ワークショップは、福岡市博物館の市史編さん室が主催しました。市史編さん室は「新修福岡市史 特別編『活字メディアの時代』」を発行し、その関連で企画されたワークショップを文林堂が受け入れました。店主の山田善之さんが印刷の歴史を参加者に説明し、年季の入った印刷機の扱い方を伝授します。


古い印刷機の扱い方を教える山田さん

 10人ほどの参加者は、ほとんどが女性です。印刷機を扱う手つきはぎこちないものの、「たのしい!」と明るい声が響きます。参加者たちは印字されたばかりの紙片を手に取り、納得の表情で出来栄えを何度も確認していました。


ワークショップで完成した印刷物


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そもそも活版印刷って?

 活版印刷は、凸版印刷の一種で、活字を並べて文章にした版を作り、それに塗料を塗って印刷する手法です。幕末から明治にかけ、近代化の波に乗って日本全国に普及していきました。長崎出身で「活版印刷の先駆者」と呼ばれた本木昌造の活躍もあり、北部九州での広がりは特に著しいものだったそうです。

 作業は大まかに以下のような流れになります。

1.活字を拾う

 鉛でできた活字の棒が並ぶケースから、必要なものを一文字ずつ拾います。この工程は「文選(ぶんせん)」と呼ばれます。

2.版を組む

 原稿のレイアウトと同じように、文字や行の間隔を整えながら活字を並べ、印刷のベースとなる版を組み上げます。​

3.印字する

 印刷機に版をセットしてインクを塗り、レバーを押し下げると、版が用紙に強く密着して印字されます。


 1枚刷ったら、紙を取り換えてまた1枚。刷り上がったらもう1枚。レバーを下げるにはかなりの力が必要なうえ、力の入れ具合で仕上がりの風合いが異なるため、絶妙な加減が求められます。
 数枚程度の作業なら楽しめますが、これが100枚、1000枚となると…。当時の印刷がどれだけ大変で専門性の高い仕事だったかが想像できます。ワークショップの参加者からも「仕事でやるとなると…」「何枚も均一に刷るのは…」といった声が聞こえてきました。


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時代の流れを見守って

 文林堂では、明治時代から活躍してきた珍しい印刷機を見ることができます。活版印刷の工程を見学したあと、仕事場をゆっくり見渡していると、古い印刷機やケースに並ぶ活字が大活躍していた時代が目に浮かぶようでした。
 



 店主の山田さんは「手作業で力を込めて印刷していると、やはり気持ちが乗ります。とくに名刺を刷るときは、どうかよい出会いになりますようにと思いますよ」と笑顔で話してくれました。


活字ケース。福岡県西方沖地震では棚が倒れ活字がすべて散らばった

 活版印刷には、文字の味わいだけでなく、その作業に込められた「思い」があることに気づかされました。もっと深く知りたくなり、文林堂を再訪したいと伝えると、山田さんは快諾してくれました。

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