「食」で郷土の歴史を学ぶ 笑顔はじける田川市のご当地給食

ホルモン鍋の給食を前に笑顔の児童たち

記事 INDEX

  • みんなで「ホルモン鍋」
  • 新しいメニューも登場
  • 「田川を好きになって」

 福岡県田川市で、市立小中学校のご当地給食が提供開始から15年を迎えた。「ボタ山カレー」や「作兵衛団子」など、田川の歴史・文化にちなんだメニューが、児童・生徒に喜ばれている。昨年11月7日の給食では、炭鉱で働く人たちのスタミナ源だった「ホルモン鍋」が振る舞われた。

みんなで「ホルモン鍋」

 弓削田小学校の教室を、みそとしょうゆの甘い香りが包んだ。通常のホルモン鍋は牛のマルチョウなどを使うが、ご当地給食は低学年の児童でもかみ切れるよう、牛より軟らかい豚の腸を使用する。


「おいしいね」。思わず笑みが


 1年生の中には、初めてホルモン鍋を食べる子も。林由幸君は「お母さんに『おいしかった』って言って、おうちでも作ってもらいます」と声を弾ませた。


底からすくうようにホルモンを炒め煮する


 市内全ての小中学校では、校内で調理を行う「自校式給食」を導入している。温かい、できたての給食が提供される。


巨大な回転釜を使って調理


 ご当地給食の日、弓削田小学校の給食室では、調理師ら5人が午前8時から準備を始めた。用意するのは420人分。食材は1人当たりの量がグラム単位で決まっているため、野菜を切る技術も求められる。食中毒防止のため作り置きはせず、調理は時間との闘いとなる。


材料が机にそろう


 みそとしょうゆを合わせた特製タレで豚の腸16キロを煮込み、玉ネギやキャベツなどの野菜類、豆腐を投入して一気に炒める。最後に、しょうゆで味を調えれば完成だ。


釜の中に一気にキャベツを入れる


 市は2024年度から、子育て支援の主要施策として「給食費無償化」を始めた。市教育総務課の岡田健二・学校給食係長は「新メニューも開発し、田川らしい食育を進めていきたい」と話している。


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新しいメニューも登場

 小中学校での「ご当地給食」は2009年度に始まった。食を通じて、田川の歴史や文化を学ぶ「特別給食」の一環で、市制施行月の11月や、全国給食週間の1月に提供される。25年度には、「川渡り神幸祭」をモチーフにした新メニューも登場する。


ボタ山カレー


 最初に開発されたのは、ライスとルーが真っ黒な「ボタ山カレー」。米に竹炭を入れて炊き、ルーには黒ごまペーストやココアなどを使う。満月に見立てたスコッチエッグを添えている。10年度には、第2弾の「ホルモン鍋」がメニュー化された。


作兵衛団子


 炭鉱画の絵師・山本作兵衛の作品群が、ユネスコの世界記憶遺産に登録された11年には、第3弾の「作兵衛団子」が登場。竹炭を練り込んだ団子に、甘じょっぱいきなこをまぶしたデザートは、今も人気の一品となっている。


神幸ライス (池田智子さん提供)


 そして、14年ぶりの新メニュー「神幸ライス」は、川渡り神幸祭の山笠を模した創作料理。5色の稲穂飾り「バレン」を、大麦、ナス、パプリカなどで表現した。パプリカは、田川のブランド野菜「ピュアパプリカ」を使用する。


川渡り神幸祭


 祭りが開催される5月に提供できるよう、準備を進めている。


「田川を好きになって」


池田智子さん


 ご当地給食のレシピ開発に携わる市教育総務課学校給食係の池田智子さんに、給食への思いなどを聞いた。


――ご当地給食が始まった経緯は
 給食の献立を作っていた栄養士の角銅雅江さんが発案して始まりました。ボタ山カレーは、陸上自衛隊飯塚駐屯地の食堂で提供されていた黒っぽいカレーをヒントにしました。石炭産業で栄えた田川の歴史を食べて学ぶ献立として、シリーズ化しました。

――ホルモン鍋は児童・生徒に大人気ですね
 提供を始める前にアンケートを取った時は、半数近くが「食べたことがない」と回答していました。郷土料理なのに、全く食べない家庭も少なくない。今は年1回食べる機会ができ、「野菜は嫌いだけど、これなら食べられる」という子はいます。


年に1度のホルモン鍋の給食


――今年度から全校で自校式給食が始まった
 出来たてが食べられるところが良さですね。給食の匂いが教室まで届くので、「給食を早く食べたいな」となる。子どもたちと調理師がコミュニケーションをとれるのも利点の一つです。子どもたちの感想は正直なので、調理師の気持ちのエネルギーになります。

――最後に、ご当地給食への思いを
 学校に行く楽しみの一つに、給食がなってほしいですね。大人になってから、子どもの頃の思い出話をした時、『田川の給食にはホルモン鍋があった』とか、『ボタ山カレーがあった』とか、自慢話のネタになってくれればうれしい。子どもたちには、自信を持って『田川が大好き』と言ってほしいですね。


「おかわり下さい!」


(写真・大野博昭)


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