文化財と調和する空間 柳川の料亭旅館・御花がリニューアル

スイートルームの「特別室 黒松」。大きな窓から敷地を見渡せる(写真はいずれも御花提供)

記事 INDEX

  • 殿様の屋敷から旅館へ
  • 客室で迎える美しい朝
  • さらに"特別"な時間に

 敷地全体が国の名勝に指定されている料亭旅館・柳川藩主立花邸「御花(おはな)」(福岡県柳川市)が1月11日、リニューアルオープンします。老朽化のため半年をかけて改修した宿は、"文化財と調和する空間"がテーマ。かつて藩主と家族が過ごした歴史と伝統を未来につないでいきたいとの思いが込められています。

殿様の屋敷から旅館へ

 御花の歴史は1738年、5代藩主の立花貞俶(さだよし)が、側室や子どもたちの住まいとして屋敷を建てたことから始まります。

 明治になると14代当主・寛治(ともはる)が、クロマツを配した池庭「松濤園(しょうとうえん)」、迎賓館「西洋館」、約100畳の「大広間」など、現在の御花を構成する庭や建物を築きました。第2次世界大戦後の1950年に、料亭旅館に姿を変えました。2025年は旅館創業75年の節目でもあります。


江戸時代に藩主の別邸として始まり、明治期に伯爵邸として整備された(立花家史料館所蔵)

 松濤園は大広間からの眺望を楽しむ日本庭園で、1978年に国の名勝に指定。2011年には、その芸術性や価値が再評価され、松濤園を含む敷地全体(約2万3000平方メートル)が「立花氏庭園」として名勝に追加指定されました。

 近くには柳川名物「川下り」の終着点もあり、御花は旅の疲れを癒やす場所としても多くの人に親しまれてきました。しかし、建物の老朽化が進んだことから24年7~12月、旅館の営業を休止して大規模な改修を実施しました。


advertisement

客室で迎える美しい朝

 今回のリニューアルで、全20室の客室やロビー、エントランスなどが生まれ変わりました。客室はそれぞれ個性が異なる8タイプの部屋が用意されています。


水回りもきれいに整備された「特別室 黒松」のバスルーム


 中でも、自慢はスイートルームの「特別室 黒松」(約90平方メートル)です。最上階の角部屋で、松濤園、西洋館、大広間が見渡せます。寝室からも庭園が望め、大きな窓の外に広がる朝の美しい景色は、“殿様”になった気分を味わえるとのことです。


「芍薬」の客室。2、3階の角部屋で、日が沈むと松濤園のライトアップなどが窓から楽しめる

 ほかにも、敷地内で咲く花から名付けた「芍薬(しゃくやく)」(約65平方メートル)や「黒椿」(約60平方メートル)、夕暮れ時の景観がひときわ美しい「橙(だいだい)」(約35平方メートル)といった部屋があります。

 料金は部屋のグレードに応じ、1人1泊3万8700円~8万3200円(1室2人利用時で2食付き)です。2月28日まではリニューアル記念の特別プランも予約サイトで案内しています。

さらに"特別"な時間に

 館内には、立花家が守ってきた歴史、地域の伝統や文化を感じられる仕掛けが用意されています。

 エントランスは、殿様屋敷の土台で柱を受ける礎石などを石畳に利用し、宿泊客を出迎えます。内装の一部は、建物外壁の黒漆喰(しっくい)の色に合わせ、黒を基調にしました。武家の質朴とした、飾り気のない上質な空間を演出したそうです。


ロビーには提灯をイメージした照明を配置

 また、ロビーやラウンジには福岡県八女市の老舗提灯(ちょうちん)店「伊藤権次郎商店」が手がけた八女提灯の照明を配置し、宿泊者専用の入り口には手織りの久留米絣(かすり)ののれんを掛けています。

 館内のBGMにもこだわりました。松濤園で録音した鳥のさえずり、水の流れ、風が吹き抜ける音などが癒やしの"旋律"を奏でます。専用の2次元コードから音源をダウンロードすると、自宅などでも余韻に浸ることができます。


夜の松濤園と明かりに照らされる黒松

 このほか毎日夕刻、スタッフによる約30分の館内ガイドを行います。担当者は「受け継いできた歴史を、100年先の未来を見据えて伝えていく思いで改修工事を行いました。文化財に泊まる特別な体験を、これまで以上に満喫できる空間になりました」と話しています。



advertisement

この記事をシェアする