"神さまのごはん"を味わえるカフェ 八女・福島八幡宮に誕生
記事 INDEX
- 神さまとつながる
- 地域の神社を守る
- 若い人に情報発信
福岡県八女市にある福島八幡宮の境内に、古い家屋を改装したカフェ「カミカケ茶屋」がオープンしました。神社のお供え物などを無駄なく活用するのが特徴で、神聖な食材を用いた“神さまのごはん”を提供します。多くの人に神社に興味をもってもらおうと、様々なアイデアを巡らせる宮司の吉開雄基さん(30)に話を聞きました。
神さまとつながる
福島八幡宮は市の中心部に位置し、周囲には旧福島城下の伝統的な白壁の町家が並びます。カミカケ茶屋は神社の鳥居をくぐった参道横に、1月11日にできました。
カフェは元々、吉開さんの実家で、2階建ての母屋と築100年以上の平屋からなります。
店内はカウンターと座敷の計34席。壁は周囲の景観と調和する白を基調とし、天井の一部は格式のある格天井(ごうてんじょう)となっています。インテリアとして、カフェのロゴや神社の紋が入った八女提灯(ちょうちん)の照明をつるしています。
提供するメニューのテーマは、神社のカフェだからこそできる“神さまのごはん”です。店では、神社に供えられた米や酒、野菜などを使用するほか、仕入れた食材も神職がおはらいなどをして清めてから調理します。
食事は、ちりめんと八女茶の俵むすび、ウロコも食べられるタイの素揚げ、タイだしのスープなどがセットになった「かみさまのごはん」(税込み2750円)と、八女茶が香る「めでたい茶漬け」(同1980円)など。ほかにパフェやアイス、ティラミスも用意しています。
吉開さんは「神社をイメージした空間で、ゆったりとした時間を過ごしてほしい」と話します。
地域の神社を守る
1661年(寛文元年)に創建された福島八幡宮は、城のやぐらが立っていた場所に鎮座しています。八幡神(応神天皇)をまつり、城下の住民らが信仰を寄せていました。
吉開さんが跡を継いだのは8年ほど前。体調が思わしくなかった父・富生さんの容体が悪化し、皇學館大学(三重県伊勢市)で神職になる勉強をしていた4年生の時、卒業後はすぐに実家へ戻ることを決めたそうです。
2017年4月に帰郷しますが、富生さんは5月に亡くなりました。「帰ってくるのを待っていたのかな……」。吉開さんは振り返ります。
引き継ぎもままならない中で、母・静子さんに実務を教わりながら神社を運営していくことに。そこで直面したのが、神社の厳しい経済事情でした。
当時、1日の参拝者は地元の10人ほどで、最もにぎわう初詣さえ数百人が訪れる程度。収入は年間で約300万円と、境内の維持管理費を差し引けば、食べていける状況ではなかったといいます。「どうすれば神社に興味を持ってもらえるのか、たくさんの人がお参りに来てくれる方法はないだろうか」と吉開さんは考えました。
若い人に情報発信
まず試したのが御朱印でした。神社に参拝する人が少ない20~40歳代にターゲットを絞り、イラスト入りや切り絵タイプのものを用意しました。SNSで映えるデザインはすぐに話題となり、「かわいい」「コレクションしたくなる」と反響を呼んだそうです。
また、インスタグラムやTikTok、X(旧ツイッター)といったSNSを駆使し、神社の主祭神やご利益、境内で行われる民俗芸能「八女福島の燈籠(とうろう)人形」などの情報を発信し続けました。今ではインスタで2.6万人、TikTokで22.3万人のフォロワーを数えるまでになりました。
このほか、コロナ禍ではリモートで行う「オンライン祈祷(きとう)」を始めたり、神社に来られなくてもお守りや御朱印の授与ができる通販サイト「オンライン授与所」を開設したりと、新たな展開を進めました。
神社の知名度も上がってきた22年3月、静子さんが体調を崩して亡くなりました。吉開さんは「受け継いだこの場所を守るため、がむしゃらに取り組もうという思いを強くしました」と話します。
吉開さんによると、24年の参拝者は多い日には500~600人に上ったといいます。同年の正月三が日は、境内にステージを設けて書道や和太鼓のパフォーマンス、マルシェなどのイベントを開催。25年は県内外から約5万人の初詣客を迎えました。
計約40人に増えた神職とスタッフの働き方改革にも取り組み、神社では珍しい”定休日”を導入しています。
カミカケ茶屋は吉開さんの思い出が詰まった大切な場所でもあり、「建物は取り壊さず、参拝した人が休めて、地域の人も交流できるように活用したかった」といいます。たくさんの人が訪れる”世界一の神社”を夢見て、吉開さんの挑戦は続きます。