来年は飛躍の年となりますように 干支の卯こまを生産中
記事 INDEX
- 創業120年の老舗
- 生産の現場を見学
- 乳幼児向け玩具も
クルクルと物事がうまく回る一年となりますように――。こまには昔からそういう意味が込められているそうです。福岡県八女市の「独楽(こま)工房 隈本木工所」では、来年の干支(えと)「卯(う)」にちなんだウサギをモチーフにしたこまの生産が進められています。
創業120年の老舗
創業から約120年の隈本木工所は、九州で昔からなじみの「博多こま」、上面中央に”へそ”と呼ばれる突起がある「八女こま」など伝統的な和ごまを作っています。ほかに、こまに顔を描く「こま人形」や木製おもちゃの製造・販売も手がけています。
6代目の隈本知伸さん(63)は「特に九州は、ほかの地域とは違う遊び方がありました」と話します。九州のこまは「けんかごま」とも呼ばれ、鉄製の芯が打ち込まれているのが特徴です。回っている相手のこまをめがけて自分のこまを投げつけ、戦わせます。お正月には、こまで遊ぶ子どもがたくさんいたそうです。
かつては人気の遊びだったものの、近年はゲームやスマートフォンの台頭により、子どもたちが触れること自体が減っています。隈本さんは「伝統的なこま以外にも、老若男女が手にとって楽しめるものをたくさん作っています」と話します。
生産の現場を見学
「福が回る」「お金が回る」「人生が円満になる」といった意味から、こまは入学や結婚、新築や節句などの縁起物として贈られることがあったそうです。
飾って楽しい「こま人形」を企画した隈本木工所では今、お正月に向けて、かわいらしいウサギのこまが次々と誕生しています。
用いる木材は、こま人形の種類によって変えているそうです。今回は白いウサギのイメージに合うように、木肌が白いカエデを選びました。木目が細かく堅いことも特徴だといいます。木材は九州産にこだわっており、1年ほど乾燥させたものを加工します。
こまの形に加工する
隈本さんの案内で工場に入ると、木の香りが漂ってきました。工作機械が並ぶ一角では、職人が手作業で仕上げ削りをしていました。角材から粗削りされたこまの凹凸をなくしていきます。
仕上げ作業からは、「ろくろ」と呼ばれる機械を使います。回転するこまに刃物をあて、先端や持ち手を削ります。木の堅さは一つ一つ違うため、職人の手の感覚を頼りに丸みをつけ、質感を出していきます。削り方のわずかな違いで、こまの重心がぶれ、回る時間が変わるそうです。
絵付けをしていく
検品のあとは絵付けを行います。この工程では、「わん」と呼ばれる台座にこまを載せ、筆で色を着けていきます。ウサギの体に見立てて、白い絵の具を塗っていきますが、むらなく均一に仕上げるのは難しいそうです。
顔を描いて命を吹き込む
白く塗り終えたら、木材専用の赤いペンでウサギの顔を描いていきます。こま人形を企画・デザインしている真田賢一さん(28)が、つぶらな瞳と愛らしい耳を描き入れ、こまに命を吹き込みます。
「木肌が残るような見せ方をしています。柔らかな表情が伝わればいいな」と真田さん。こまを手にすると、カエデのすべすべとした手触り、香りを感じられます。
干支のこまは2019年から子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯と4作品を生産しました。このほか、桃の節句に「お内裏さま」、端午の節句に「金太郎」や「こいのぼり」などを作っています。
こま人形は、郷土玩具をそろえる雑貨店やセレクトショップなど全国で取り扱いが増えているといいます。こま遊びとあまり縁のなかった世代が「子どもと一緒に遊びたい」と買い求めるケースもあるそうです。
乳幼児向け玩具も
木工所では、こまで培った技術を生かして、乳幼児向けの知育玩具にも取り組んでいます。「若いスタッフが商品のデザインを企画してくれます」と隈本さん。こまの「丸みを削り出す」技で生まれる温かみのある玩具です。
2018年には、ネコやイヌ、トリなど5種類の動物の人形を転がして遊ぶ積み木が、デザインや発想が優れた商品を表彰する「福岡デザインアワード」で金賞に輝いたそうです。
ほかにも、サルのガラガラ、カエルの形のおきあがりこぼしなどがあります。隈本さんは「小さい頃から木の温かさを知ってもらい、こま遊びに興味を持ってくれたらうれしい」と話します。
独楽工房 隈本木工所
福岡県八女市吉田1507-3
電話 0943-22-2955
公式サイト