【宮崎】幻の日本酒「いすゞ美人」が復活 美郷町の光に
宮崎県の山あいにある美郷(みさと)町で半世紀以上前に製造されていた日本酒「いすゞ美人」を住民らが復活させた。特別な日に飲まれることもあった「幻の酒」で、過疎化が進むまちの活性化につなげようと町や住民らが3年前に復活委員会を結成。酒蔵に眠っていた記録を基に、かつての酒造りで使われた酒米や酵母を再現し、復活にこぎ着けた。
黄金色の原酒
県内唯一の清酒メーカー「千徳酒造」(延岡市)で2月10日、「初搾り」が行われた。黄金色をした原酒が出てくると訪れた町関係者に笑みが広がった。
同社は復活委員会のメンバーで製造を担当している。社長で杜氏(とうじ)の門田賢士さん(61)は「穏やかな香りで酸味と米のうまみがしっかりと乗っている。使ったことがない酒米や酵母だったが、バランスの良い酒ができた」と満足げな表情で語った。
復活のプロジェクトが始まったのは2022年夏。21年に鹿児島から移り住み、町商工会事務局長に就いた渡会実さん(65)が、まちおこしの一環で考案した。
渡会さんによると、いすゞ美人は町で酒の小売業を営む「甲斐酒店」の前身で、江戸末期創業とされる綿屋酒場で製造されていた。近くを流れる五十鈴(いすず)川から名前を取っており、祝い事などの席で親しまれていたが、製造を担っていた合名会社が1968年に大分県の酒造会社と合併して解散。いすゞ美人の販売も終了した。
渡会さんは、美郷町に住む娘の義父が、いすゞ美人のことを誇らしげに話していたことや、町の関係者から「なんとかもう一度造れないか」との声を聞いて復活を発案。町の協力を得て復活委員会が発足した。
半世紀を経て再現
当時の味や香りを知る人はわずかで、味を尋ねても甘口や辛口など様々。そこで酒蔵に保管されていた帳簿などから、かつての酒造りで使われた酒米や酵母をたどり、これらを再現することになった。
酒米の瑞豊(ずいほう)は今は栽培されていないため、植物遺伝資源を保存している農業・食品産業技術総合研究機構から種もみ50粒を入手し、2年かけて育てた。酵母は酒蔵に残っていたおけやひしゃくを綿棒でこすって菌を採取し、県食品開発センターで開発に成功。これらに酒蔵の井戸でくんだ水を使って仕込みに臨んだ。
酒税法が改正された影響で当時とは製造方法が異なるものの、渡会さんは「製造が今も続いていたら、きっとこんな味になっていただろうと想像しながら飲んでほしい」と話す。
地域のシンボルに
美郷町の人口は約4200人。この約50年間で約6割減少しており、渡会さんは「復活を機に、多くの人に美郷の魅力を知ってもらいたい。遊びに来てもらえれば、まちの活性化につながると思う」と話す。
720ミリ・リットル入りで約1500本を製造予定で、ラベルは桜が描かれたかつてのデザインに、新たに16個の星をあしらった。「み(3)さ(3)と(10)」にちなんで町の光を表現したもので、「住民の誇りとなるシンボルになってほしい」との願いが込められている。
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2月22日まで同町で行われている宇納間(うなま)地蔵大祭で先行販売し、その後は町内の酒店や千徳酒造で販売する予定。価格は税込み2500円。美郷町のホームページに販売先などが掲載されている。問い合わせは町商工会(0982-66-2023)へ。