リアル『RAILWAYS』 平成筑豊鉄道で躍動するオールドルーキー運転士
記事 INDEX
- リアル『RAILWAYS』を実現させた男
- ことこと列車でも運転士デビュー
- 鉄旅できる日常、戻ってこい
福岡県福智町の鉄道会社「平成筑豊鉄道」に、映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の主人公と同じ、49歳で夢の運転士になったオールドルーキーがいます。大型連休中の5月3日、通常の乗務に加え、平成筑豊鉄道が誇るレストラン観光列車「ことこと列車」の運転士としても新たな一歩を踏み出しました。
リアル『RAILWAYS』を実現させた男
「子どもの頃から運転士になるのが夢でした」。そう語るのは今回の主役、運転士の佐藤和則さん(51)。この仕事に憧れたのは、父親の存在が大きかったそうです。父親は旧国鉄や民営化後のJRで、蒸気機関車や貨物列車を走らせました。「将来は父と同じ道に」。しかし、佐藤さんが社会人になる頃は、国鉄分割民営化の影響で新卒採用を中止していた時期と重なっていました。
佐藤さんは郵便局員に。それから30年、運転士になる夢は半ばあきらめていましたが、友人からある情報を伝え聞きます。
「平成筑豊鉄道が中途採用の募集をしてる」。50歳手前の自分が合格するとは思えませんでしたが、ダメ元で応募してみたら結果はまさかの採用。入社後は運転士になる訓練を受け、2019年3月に49歳で運転士としてデビューしました。
佐藤さんの姿は、島根県にある民営鉄道「一畑電車」をモデルにした2010年公開の映画『RAILWAYS』で、中井貴一さんが演じた主人公と重なります。「49歳で運転士になった話をすると、『映画と同じやね』という話題になります」。夢を実現させた佐藤さんが次に挑戦するのが、ことこと列車の運転士なのです。
「ことこと列車」とは
ことこと列車は、地元食材を使用した料理を味わいながら、約3時間の旅を楽しむ観光列車。登場は偶然にも、佐藤さんの運転士デビューと同じ2019年3月でした。
車両デザインは、JR九州の「ななつ星 in 九州」や「或る列車」などを手がけた工業デザイナー・水戸岡鋭治さん。内装には福岡県大川市の伝統工芸「大川組子」を使用しています。
近年ブームとなっている観光列車。JR四国の「四国まんなか千年ものがたり」や、肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」など、各地の鉄道会社が力を入れる人気コンテンツに育っています。平成筑豊鉄道は利用者の減少に苦戦する鉄道事業の新しい収益源として期待をかけています。
線路の「クセ」も細かく把握
ことこと列車の運転は、車内で食事を楽しむ乗客のために細心の注意が求められます。加速やブレーキの加減だけでなく、走行中に揺れやすいポイントなど、線路のコンディションや「クセ」も把握しておく必要があるそうです。
さらに「旅のアテンダント」としての役割もあります。沿線の名所を案内する車内アナウンスは「覚えることも多くて大変です」と、普段の乗務とは異なる難しさがあるそう。佐藤さんは先輩運転士に付き添ってもらい、訓練を積んできました。
デビューの日は晴天。ことこと列車の運転士として、初めてひとりでの運転を終えた佐藤さんは「たくさんの沿線住民の方々が列車に手を振ってくれて、普段とは違う喜びがありました」と感慨深げに語りました。
鉄旅できる日常、戻ってこい
佐藤さん自身も、鉄道に乗るのが大好きで、「車内で一杯やる『呑み鉄』なんです」と笑います。
ことこと列車は2019年の運行開始から客足が好調で、台湾など海外からの観光客が増えるなど手応えを感じてきた直後に今回のコロナ禍が直撃。昨年春は緊急事態宣言を受けて約3か月の運休を余儀なくされました。
その後は感染防止対策を講じながら運行を続けてきましたが、新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて政府が福岡県に緊急事態宣言を発令することを決定。平成筑豊鉄道は11日、月内のことこと列車を運休すると発表しました。
コロナ禍でのデビューとなった佐藤さん。「初乗車は反省点も多かったですね。お客様が満足、感動していただける運転を目指したいです。ことこと列車はしばらく運休しますが、新型コロナが収束して、また鉄道で全国を旅行できる日常が戻ってきてほしいです」。列車運転士として、ひとりの『乗り鉄』としても、心からそう願っています。