リアル鉄道経営も山あり谷あり…平成筑豊鉄道の社長と桃鉄で対決してみた

記事 INDEX

  • リアル社長の腕前は?
  • 社長公募には4回も挑戦
  • 鉄道経営の極意とは?

 本物の鉄道会社の社長と『桃鉄』をしたらどうなるか。コロナ禍でピリピリした雰囲気が立ちこめる鉄道業界にあって、そんなのほほんとした企画を快く引き受けてくれた社長がいました。福岡県に本社を置く「平成筑豊鉄道」の河合賢一社長です。リアルな鉄道会社の経営は、桃鉄以上に山あり谷あり!? ローカル線の維持ってそんなに大変なの!? 桃鉄しながら根掘り葉掘り聞いてきました。

異色の経歴の持ち主


桃鉄対決を快く引き受けてくださった河合社長

 「楽しそうですね。よろしくお願いします」。笑顔で登場した河合社長。実は桃鉄をプレーするのは初めてだそう。

 河合社長は2017年に公募で選ばれて社長に就任しました。東大工学部中退後、大分県庁に入庁。へき地医療の医師確保などを担当しました。公務員を10年経験して民間に移り、九州産交ツーリズム社長、九州産交バス取締役を歴任。平成筑豊鉄道が初めて公募した常勤社長に応募し、47歳で社長に就いた異色の経歴の持ち主です。


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 「鉄道経営に興味を持ったのは高校生のときです。国鉄の分割民営化で発足したJR九州の初代社長が東大工学部出身だったんです。将来はエンジニアになって鉄道車両の設計を思い描いていたのですが、経営の方が楽しそうで。夢を鉄道会社経営に変えました」。さらりとそんなことを言います。東大ってそんなに簡単に入れたっけ。そんな疑問がふとよぎりましたが、ひとまず受け入れました。

東大中退。鉄道経営の夢はどこへ?


桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~(©︎さくまあきら ©︎Konami Digital Entertainment)

 対決に使用したシリーズ最新作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」。販売元のコナミデジタルエンタテインメントによると、5月時点の累計出荷が300万本を突破したそうです。今回、対決期間は3年間に設定しました。

 最初の目的地は、加賀百万石で知られる「金沢」。サイコロを振りつつ、まずは大学時代の話になりました。河合社長は東大"中退"。その理由に驚かされます。

 「東大には5年間在籍しました。『めざましテレビ』を見ると眠たくなる、昼夜逆転の生活でしたね。勉強もろくにしないで、サークル活動ばかりでした」。さっきまで東大を出て鉄道会社の社長になるのが夢だと語っていた人の言葉です。


大学生活を楽しそうに話していたのでそっとしておきました

 「東大は男子学生の割合が圧倒的に高いんですよね。なので、どうしてもサークルの男女比も男性優位になってしまいます。サークルの男女比を均等にしようと、近隣の女子大でチラシを配って勧誘し、男女比を均衡させました」。会話から鉄道の影すら消えました。「まぁ30年前ですから。当時は女子大側もルーズで、男子学生も入れました。サークルがきっかけで結婚できた仲間もいるので、感謝してほしいです」

 そんな話をしていると、桃鉄は最初の目的地の金沢が近づいてきました。ここでサイコロのいたずら。記者がゴールに先着。接待プレーをしつつ話を引き出す計画が崩れ去ります。同席したカメラマンも「おいおい」という目で記者を見つめます。


記者痛恨の一番乗り…(©︎さくまあきら ©︎Konami Digital Entertainment)

大分県職員を辞めたわけ

 次の目的地は北海道の函館。この微妙な空気を変えようと、平成筑豊鉄道が2019年に導入したグルメ観光列車「ことこと列車」の話題を振りました。全国で近年ブームの観光列車。平成筑豊鉄道も鉄道事業の新たな収益源として期待をかけています。

 地元食材を用いた料理を味わいながら、約3時間の旅を楽しめる列車。車両デザインは、JR九州の「ななつ星 in 九州」や「或る列車」などを手がけた工業デザイナー・水戸岡鋭治さん。内装には福岡県大川市の伝統工芸「大川組子」を採用しています。


福岡県赤村の第二石坂トンネルを抜けることこと列車(久保敏郎撮影)

 ことこと列車は運行開始からわずか1年で値上げに踏み切りました。「日本経済はデフレ基調なので、何もしなければ値下げ圧力が働きます。商品の価値に自信があるなら、値上げして、より利潤を追求していくのが経営者の腕の見せ所です」。河合社長はさらに続けます。

 「観光への消費は『結婚指輪』と同じで、値下げをすれば満足度が上がるとは限りません。正当な価値があれば、高くてもお客様の満足度は得られます」。ここにきて経営者らしいコメントをいただきました。桃鉄の経営は赤字のようですが。


河合社長の記念すべき初の一番乗り(©︎さくまあきら ©︎Konami Digital Entertainment)

 そうこうしていると、河合社長が函館に先着。もちろん、函館の思い出話も語ってくれました。

 「それまで46都府県を訪れていて、北海道を残すだけでした。大分県庁を辞める直前に公休消化で訪れました。当時、30歳代で県職員を辞める人はほとんどいなくて、先輩から『何やらかしたんだ』と本気で心配されたのを覚えていますね」

 「ただ、私は県職員として勤め上げる気持ちはありませんでした。公務員は年功序列。トップは選挙で選ばれるので『経営者』にはなれません。鉄道会社の経営者になる夢を実現しようと思っただけ」。鉄道経営の夢は持ち続けていたみたいです。


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社長公募は2勝2敗!


電車のシートを再利用した会議室。電車で桃鉄してるっぽい

 最終目的地は千葉県・銚子。太平洋側の路線を南下して目指します。

 茨城県の「ひたちなか」を通過した河合社長。「『ひたちなか海浜鉄道』ってご存じですか」と唐突な質問。「ひたちなか海浜鉄道も過去に社長を公募していて、最終面接までいったんですけど落ちました」とカミングアウト。

 予想外の言葉に驚いていると、「実は社長の公募には平筑を含めて4回挑戦して、2社は内定、2社は不採用でした。珍しいでしょ。そのときにひたちなか海浜鉄道の社長に就任したのが吉田千秋さんで、今でもすばらしい社長さんです」


リアル鉄道会社の社長も桃鉄には大苦戦!?

 そこまで鉄道経営に執着する理由は何なのか。特にローカル線の経営は、お世辞にも高い収益性が見込める事業とは思えません。

 国土交通省によると、全国で2000年度以降に廃線となった路線は45路線(4月1日現在)を数え、約1160キロの鉄道・軌道が廃止されました。さらにコロナ禍において、主要鉄道各社は2021年3月期連結決算で軒並み最終赤字を計上。業界は人口減少を見越して進めてきた構造改革を一段と加速させるとみられます。


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 「車両や線路の維持管理は正直大変です。平筑は国鉄時代から廃止が検討されていた路線で、修繕が必要な箇所も多いです」。平成筑豊鉄道が意識しているのが、自治体や住民との情報共有だそう。「路線の維持管理にかかる費用もオープンに議論しています。鉄道は地域にとっての大切な生活インフラ。人口減少時代において、生活の足としての鉄道をどうやって維持するのか、日頃から議論していくべきです」


過去10年で廃止された路線(国土交通省の資料より作成)

 コロナ禍に加え、近年の平成筑豊鉄道を悩ませているのが、相次ぐ災害です。

 2018年の西日本豪雨では線路が被災し、一部区間が約3か月にわたり不通に。沿線の住民や企業が募金活動をして支援金を寄せました。「募金には驚きました。いかに平筑が地域から愛され、必要とされているのかを実感しましたね。コロナ禍においても、10万円の特別定額給付金を持参してくれた方がいました。封筒を持って突然現れて、私も社員もびっくりしたのと、ありがたかったのとで」

 沿線住民とのエピソードは他にもあります。駅の命名権を買い取った住民が、駅名の看板を用意してくれただけでなく、駅待合室の修繕もしてくれたそうです。「各駅に地域とのつながりがあり、ストーリーがあります。JRのような駅の統一性はないかもしれませんが、それが平筑らしさだと思っています」


16年前から大藪駅と田川後藤寺駅をボランティアで清掃する男性(久保敏郎撮影)

鉄道経営の極意とは?

 桃鉄対決は、最後の3年目も残りわずか。リアル鉄道経営についても聞きました。

 「経営をしていてつくづく感じるのが、『良い時期』と『悪い時期』が思った以上にはっきり出るということですね。何をやっても上手くいくときがあれば、何をやっても駄目なときもあります。いいときはまさに『風が吹く』ような感覚ですね。そういう良い悪いって、実は決算書の数字では見えにくかったりします」


平成筑豊鉄道や地域への愛着は強い

 社長就任後、ことこと列車など矢継ぎ早の改革で、経営を黒字化させようと奮闘を続けています。「下げ止まりを感じていたところに、豪雨災害があり、今回のコロナ禍。経営は本当に予想もつかない山あり谷ありです。ことこと列車はおかげさまで良い評価をいただいています。一方、観光事業はコロナ禍などの外部要因に左右されやすいです。急成長する商売は降下するのも早いもの。通学や買い物利用など、生活インフラとしての鉄道事業が私たちの基盤です。安全運行やお客様へのあいさつなど、手を抜かずに地道にやっていくことがとても重要なんです」

 鉄道経営の本質を聞き出せたところで、桃鉄もお開きに。結果は、河合社長が総資産マイナス3億円。一方の記者は30億円を超え、空気も読まずに勝利しました。河合社長が「笑えないですねぇ」と言いつつ笑ってくれたので良しとします。


普段は聞き出せないお話が満載のインタビューでした

 河合社長にとって初挑戦の桃鉄でしたが、気に入ったようで「桃鉄、おもしろいですね。九州には第3セクターの鉄道会社が6社あるので、社長を集めてやったら面白そうですね。その時はまた取材してくださいよ」

 桃鉄をしたい鉄道会社の社長さん、ささっとー編集部はみなさんからの挑戦をお待ちしています!


最後まで赤字は解消できず……

平成筑豊鉄道(へいせいちくほうてつどう):本社は福岡県福智町。福岡県中部に約49キロを敷くローカル線。国鉄の分割民営化の際に廃線も検討されたが、存続を求める地域住民の声に押され、「平成」に改元された1989年、福岡県や沿線自治体も出資する第3セクターとして誕生。福岡県北九州市の観光トロッコ線「門司港レトロ観光線(愛称:北九州銀行レトロライン)」も運行する。


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