難聴者の「困った」を知ってほしい 家族会が動画「♪なんちょうなんなん」を制作
記事 INDEX
- 困る事例を歌と字幕で
- 小学校の授業でも活用
- はっきりと大きな声で
難聴者が日常会話で困っている事例や周囲に望む対応を紹介するアニメーション動画を難聴の子どもの親でつくる家族会「そらいろ」(福岡市)が制作し、インターネット上で公開しています。外見から障害が分かりにくいため、人知れずつらい思いをしている実情を分かりやすく発信し、学校の授業でも活用されています。
困る事例を歌と字幕で
動画は約3分で、タイトルは「♪なんちょうなんなん」。主人公は、難聴を抱える小学生の男の子です。子どもたちにも親しんでもらえるよう家族会がアニメの制作を企画。クラウドファンディングで費用を集めて、福岡市の映像制作会社「KOO-KI」に依頼し、約3か月かけて今年6月に完成しました。
難聴者が苦労している事例を歌と字幕を付けて紹介し、それぞれのケースで周囲に望む対応を伝える構成です。例えば、後ろから呼ばれると声を聞き取るのが難しいため、「前に回って話してくれたら」。また、補聴器や人工内耳をつけた難聴者の前で複数人が同時に話すと全員の声が大きくなって聞き取りにくくなるので、「一人ずつ会話始めてくれたら」と配慮を求めています。
KOO-KIの白川東一(もとひろ)さんは制作前に家族会から話を聞き、VR(仮想現実)の機器で聞こえにくい状況を体感。「後ろから声をかけられても聞こえないなど想像以上の苦労がありました。難聴を理解するきっかけとして動画が長く活用されてほしい」と期待します。
小学校の授業でも活用
福岡市立能古島小中学校(西区)では7月、小学2年の授業で動画を使いました。見終わった後、このクラスに在籍し、生まれつき耳が不自由な門司大和君が「みんなに(難聴のことを)分かってほしい」と思いを伝え、同級生から「助けになりたい」との声が上がりました。動画の活用は門司君の母親が提案したといいます。
両耳に人工内耳をつけた門司君は入学前、相手の口の動きから言葉を推測する「口話」を学び、日常会話に支障はありません。ただ、複数人が同時にしゃべると、誰が何を話したか分からなくなります。小学校に入ると、コロナ禍で周囲がマスクを着けているため、会話が難しいと感じるようになったそうです。
児童と一緒に動画を見た担任の岩崎充宏教諭は「聞こえにくいのは分かっていましたが、日常で困る場面について知らないことも多かったです」と話しました。
私立福岡雙葉小(福岡市中央区)では全校児童が10月25日、各教室のテレビを使った全校朝礼で動画を視聴。家族会会長の岩尾至和(ゆきかず)さんが校内放送で「難聴の子はおしゃべりが好きな子が多いです。ぜひ話しかけて」と呼びかけました。
はっきりと大きな声で
「♪なんちょうなんなん」は家族会のホームページや動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開され、難聴者の悩みに共感する声も寄せられています。家族会は今後、学校や幼稚園の教材として使ってもらうよう働きかけていく予定です。
「動画を通じて多くの人に難聴について知ってもらい、障害を持つ人が日常生活をスムーズに送れる社会になれば」と岩尾さん。長女で小学1年の橙(ともり)さんも生まれた時から耳が聞こえにくいといいます。
コロナ禍でマスクを着けての会話が増える中、「難聴者と会話する際には、よりはっきりと、大きな声で話すことを心がけてほしい」と理解を求めています。
難聴者との会話で必要な配慮の例(家族会などへの取材に基づく)
▽下や横を向いたまま声をかけると難聴者が気づきにくい。向かい合って話しかける
▽口の動きから話の内容を推測してもらえるように、口を見せて、ゆっくり、はっきり話す
▽複数の音が重なると難聴者は聞き取りづらい。複数人で会話する場合も1人ずつ話す
▽聞き直されても快く応じる
▽言葉を補う身ぶりや手ぶりをつけて話す
▽言葉を文字で書いたり、手話を使ったりして伝える工夫を。音声を文字に変換するスマートフォンのアプリなども活用