手話でひろがる笑顔の交流 福岡市東区の「手和喫茶oboro」
レンタルスペースを活用し、毎週木曜のみ営業している喫茶店「手和喫茶oboro」(福岡市東区箱崎)が、聴覚障害者や聴者(健聴者)らでにぎわっている。手話で会話を楽しんでもらいたいとの思いから、2年ほど前にオープン。貴重な憩いの場になった店を発展させようと、店主の女性は自前の店舗を構え、さらに交流が広がる夢を描いている。
学ぶ人も!ろう者も!
「楽しいね!」。4月中旬、男女5人が手話を交えながら会話していた。胸の前に広げた両手を上下させ、「楽しい」を意味する手話をしながら笑い合った。
店主の道正絵利香さんが手話を始めたのは約15年前。聴者だが、久留米大の学生だった頃、失語症となった男性らが手話を使うテレビドラマを見て関心を持った。学内の手話サークルに所属して基礎を学び、卒業後も雑貨店の販売員などとして勤めながら地域の手話の会に入ったり、自治体の講座を受けたりして、表現の幅を広げてきた。
「学ぶ人が学習を続けることができ、ろう者も安心して話せる場を作りたい」――。身につけた手話を使う場がないことにもどかしさを感じていたところ、曜日ごとにスペースを貸し出す「荘々ラボ」が出店者を募っていることを知り、2022年7月にオープンさせた。
毎週木曜の午後に営業
店名は、おぼろ月からとった。聴覚障害者、聴者などと境界を引かずに「色んな違いや個性を持つ人がまざり合って、楽しく交流できれば」との思いを込めた。
毎週木曜の午後2~10時に営業し、人気メニューはバターチキンカレー。店内はカウンターの約10席のみで、北九州や大野城など、福岡市外から来店する人もおり、毎回、夕方以降は満席状態になるという。
店の常連で、難聴の大矢伊織さんは、「普段はコミュニケーションを取りづらいと感じることもあるけれど、ここだと手話を使って分かるまで説明し合うことができるので、みんなと友達になれる」と笑顔。手話を勉強中という聴者の女子大学生も「手話で誰かとつながれることがうれしい」と店に通う。
道正さんは、将来的には常設の自分の店を持つことを目標にしている。店では、客同士や客とスタッフの交流の場としてだけでなく、聴覚障害者を雇用し、就労環境の改善などにもつなげていきたいという。