「かかし球児」のソフトボール大会 地域の応援で秋の風物詩に
記事 INDEX
- 少子化で生まれた新チーム
- 毎日じわじわと試合が進行
- 住民の笑顔、子どもの歓声
福岡県飯塚市のJR福北ゆたか線・浦田駅そばで、”かかし球児”による「24時間ソフトボール大会」が行われている。稲刈りが終わった田んぼで、個性豊かな球児たちが熱戦を繰り広げる大会は今年で10回を数え、地域の秋の風物詩になっている。
少子化で生まれた新チーム
かかしにユニホームを着せて試合を進行しているのは、近くに住む鯰田浦田自治会長の久保井伸治さん(71)。11月初めに開幕した大会は約1か月にわたって続く。
1997年頃までは約10組のチームがあるほど、ソフトボールが盛んな地域だったという。久保井さん自身も監督を務めて指導に熱を入れていたが、少子化によりチームが次々と解散に追い込まれ、ユニホームだけが公民館に残った。
そのユニホームも廃棄寸前に。「地域で大切に引き継いできたものを、まちおこしに生かせないか」と、かかし球児によるソフトボール大会を思い立った。
地元の美容室で働く同級生からマネキンの頭部を譲り受けて作ったかかし。スポーツ刈りもいれば、長髪や茶髪もいる。
中にはアイシャドーに長いまつ毛の”美形男子”も。田んぼに並ぶ個性的な面々を目にした住民らの反応は、「怖い」「気味が悪い」と当初は散々だったそうだ。
遠目からは本物の子どもに見えるため、日が落ちた後に通りかかった人や電車の乗客から「こんなに遅い時間まで野球をさせているのか」との声も出たという。
毎日じわじわと試合が進行
今やすっかり地域に定着した大会。球児や監督、観客など約40体のかかしが躍動する”球宴”の到来に、「今年もいよいよ始まりましたね」「みんな楽しみにしていますよ」と温かい声が寄せられるそうだ。
「みなさんが期待してくれるのでやめられない」と笑顔を見せる久保井さん。「年も年ですし、自分ができる範囲で地域を盛り上げたい」
試合は、久保井さんがかかしを少しずつ動かし、日々進行していく。開幕日には各チームの選手が集合して、にぎやかにプレーボール。1塁ランナーが翌日は2塁に進んでいたり、本塁でクロスプレーを演じていたり。試合の流れは久保井さんの気分と天候次第だ。
今年は初めて、大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手と同じ身長193センチのかかしが登場し、ひときわ大きな存在感を放っている。今日はバッターでいくか、マウンドに立たせるか――。起用法を考えるのも久保井さんの楽しみになっている。
住民の笑顔、子どもの歓声
手作り感あふれる大会には、アイデアも詰まっている。グラブやバットを握るかかしの手は、半透明の手袋を用いて作る。内側にもみ殻や紙ごみを入れて、ほどよい質感を出す。腕の部分には使い古したホースをあてている。
「よかったら使ってください」。かかしが着ける道具や備品は住民から寄せられたものがほとんどだ。見学に訪れた園児に「これはサッカーの靴だよ」と鋭いツッコミを受けることもあるが、「よく見てくれていますね」と久保井さんはほおを緩める。
”球場”への立ち入り、大会への参加は自由だ。学校帰りの少年たちが、かかしに交じって野球を楽しんだり、田んぼを走り回ったりする姿も見られる。「子どもの頃の遠い記憶がよみがえります」と久保井さん。優しいまなざしを少年たちに向けた。
気になる試合の行方だが、11月末には両チーム同点になり、「応援メッセージを見ながら勝敗を決める」とのこと。地元アーティストの協力を得て実現した力作「胴上げするかかし」もお披露目するそうだ。球児たちの熱戦は、天候にもよるが、12月4日頃まで続く予定だという。