不思議なオブジェが並ぶ謎すぎる空間 飯塚市の笠城ダム公園
記事 INDEX
- オブジェで世界旅行?
- 誰がいつ何のために?
- 今年度にも取り壊し?
意外に知られておらず、「へーっ」と驚かせてくれる場所はないものか――。インパクトのある写真を撮れそうな場所を求めて、いろんな情報を探してみる。何件も何件も調べて「これは!」と思うスポットに巡り合えたときは、宝箱を見つけたような気分になる。福岡県飯塚市の笠城(かさぎ)ダム公園もその一つだったのだが……。
オブジェで世界旅行?
笠置(かさぎ)山の麓にある笠城ダム公園は、広さ約60ヘクタール。春は桜やツツジ、秋は紅葉の名所として知られる。ダムの周囲には2.5キロの遊歩道が整備され、地元のお年寄りらが散策を楽しむ姿が見られる。
その一角にあるのが「子供の国広場」。パリの凱旋(がいせん)門、ピサの斜塔、そして姫路城……だろうか? 世界に名だたる建築物をモチーフにしたと思われる年季の入ったオブジェが、きれいに刈られた芝生の上に点在している。
オブジェを眺めながら、世界一周旅行の気分に浸る趣向なのだろうか――、なんとも不思議でシュールな光景がダムの湖畔に広がっていた。
ミニチュアながら、オブジェはなかなかのスケールだ。鉄で作られたエッフェル塔は高さ3メートルほど、上層の意匠が特徴的なエンパイアステートビルも5メートルはありそうだ。広場は階段で上下に分かれ、上に4体、下に6体が鎮座している。
どのアングルから撮れば1枚に納まり、この独特な雰囲気を伝えられるだろうか。斜面を上ったり下りたりして最適なポジションを探していると、ランニング中の若い男性が広場を駆け抜けた。木の葉が風に揺れる音くらいしか聞こえない静寂の中、人の姿を見ると何となくほっとする。
誰がいつ何のために?
なぜ、市街地から離れた山の中の公園に、このようなオブジェがあるのだろうか?
飯塚市の商工観光課に尋ねてみたが、どうも知らない様子。都市計画課を案内してもらったものの、若い担当者は広場の存在そのものを知らなかった。
それでも、あれこれ調べてもらい、わかったこともある。1970年代に笠城ダム公園を整備する中でオブジェ群が設置されたらしいということ、設計に携わった「ヒラノさん」はすでに亡くなっているということだった。
「当時の記録はもう残っていない」そうで、もはや経緯を知る人は役所に誰もいないという。制作から半世紀、関係者に話を直接聞くのは、やはり難しいようだ。
ただ、農業土木課の中野幾一郎さん(51)が小学4、5年の頃に遠足で訪れたことがあるといい、思い出を話してくれた。
当時は、インドのタージ・マハルなどの存在を知らなかった中野さん。「不思議な形の建物だなぁ」と広場のオブジェを眺めながら同級生と弁当を食べたあと、絶好の隠れ場を提供してくれる”世界の名所”で「かくれんぼ」を楽しんだそうだ。
今年度にも取り壊し?
公園にある遊具やオブジェは、古くなったものから順に新しいものに替えていく。市によると、市民や地元の要望がない限り、オブジェは2023年度中にも取り壊され、滑り台やうんていを備えた複合遊具が新たに設置される可能性があるとのことだ。
まもなく消え去るかもしれないオブジェ。遠目からは、どっしりと構えて立っているものの、そばに寄るとコンクリートはひび割れ、鉄はさびで朽ちている。エッフェル塔やエンパイアステートビルも、くたびれて傾いているようにも見える。
自分とほぼ同じ歳月を過ごしてきた”世界の名所”。体にガタが来始めた我が身と重なり、親近感がわいてくる。公園に立つオブジェが迎える春は、今年が最後になるのだろうか――。ささやかでも記録に残し、紹介できたことをうれしく思った。