住民の笑顔広がる縁起物 ひょうたん形の手作りアクセサリー
記事 INDEX
- きっかけは山歩き
- 一つひとつ丁寧に
- 出会う喜びが励み
福岡県行橋市で工務店を営む山口孝男さん(72)が作るひょうたん形のアクセサリーが地域で人気だ。縁起物とされるひょうたんだけに「私にも作って」と求められ、手のひらサイズの作品を無償で提供し続けている。山口さんの作業場を訪ねた。
きっかけは山歩き
若い頃から山歩きを趣味にしていた山口さんは、山頂近くにある祠(ほこら)にひょうたんが飾られているのを目にしてきた。古くからの信仰で、無病息災や家内安全のお守りとして大切にされていると知り、自分も作りたいと思うようになったという。
10年ほど前、ひょうたん栽培を始めてみた。ところが肥料の手配などに思いのほか手間がかかり、順調に大きく育つと今度は置き場所に困ってしまう。においの問題や、ちょっとした弾みで割れてしまうことなどもあり、5、6年であきらめたそうだ。
そこで考えついたのが、ひょうたんの形をしたアクセサリー。手先の器用さを生かして、木材を削り、実の形に彫った。作品を見た周囲の人たちは予想以上に喜び、評判が口コミで広がっていった。
「千成びょうたん」という言葉から連想し、まずは1000個を目指して始めたアクセサリー作り。「もう数千は作ったやろうね」と笑顔を見せる。
一つひとつ丁寧に
材料は、どんな木でもいいわけではない。山口さんが求めるのは、古くて乾燥した木材だ。何十年もの間、家屋を支えた柱など年季の入ったものが適しているという。その材質が作品の出来を左右するため、「いい木があったら教えて」と知人らに協力を求め、真剣に選び抜く。
木材を電動工具で削り、「その時の気分」で高さ1センチから60センチ程度のものまで、ひょうたんの形に彫っていく。木目やねじれなど材料の特徴をそのまま生かして作るため、同じに見えてもそれぞれの持ち味がある。削り出しから仕上げまで一つひとつ丁寧に向き合い、朝から夕までかけても完成するのは5、6個くらいだという。
「受け取った人の笑顔を見るのが何よりも楽しみ」と山口さん。「近くの団地の人やったら、私が作ったひょうたんを持っていない人はおらんやろう」と笑う。「欲しい」という声に応え続け、これまでに2000個ほどを譲ったという。「好きなものをどれでも持っていって」と声をかけると、選ぶのに30分ほど迷う人もいたそうだ。
出会う喜びが励み
「元気にしてますか?」。昼過ぎ、卓球の練習を終えた平野啓子さん(76)ら近所の住民3人が作業場に顔を見せた。「部屋にもたくさん”山口グッズ”を飾ってますよ」と平野さん。「そういえばここにも」と掲げたバッグにひょうたんが揺れていた。「本当にいい趣味、いや趣味を通り越してるよね」と笑顔が弾ける。
地元の神社に「縁起物として売り出したい」と声をかけられたことも。しかし「作るのがとても追いつかない」と断ったそうだ。
作品を手がけるようになってから、「いろんな人たちと出会って喜んでもらえ、持病のリハビリにもなっている」と話す山口さん。「木を集めるのも大変だけれど、命ある限り続けたい」
ひょうたんをきっかけに、山口さんが巡り会えた笑顔の数はどれほどになるのだろう――。「まさに“ひょうたんから駒”ですね」と話しかけると、少し間をおいて、味のあるくしゃくしゃの笑顔が返ってきた。