あっちにもこっちにも! 北九州の公園に増殖したタコの遊具
記事 INDEX
- アイデア膨らむ遊び場
- 愛される公園の”主”に
- 職人技が詰まった作品
北九州市内には、タコをかたどった巨大な遊具がある公園が多い。「タコ山」などの名前で呼ばれるこの遊具、いったい市内にどれくらいあり、なぜ多いのだろうか?答えを見つけようと、カメラを手に出かけてみた。
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アイデア膨らむ遊び場
2月10日で市政60年を迎える北九州市。発足当時の公園は、滑り台やブランコといった単体の遊具ばかりだったという。登ったり、滑ったり、隠れたり、一つの遊具でさまざまな遊びを体験できないか――。関係者は思いを巡らせたようだ。
子どもたちのアイデアと工夫次第で、迷路や秘密基地、かくれんぼの舞台にもなる楽しい遊具。設計担当者らが案を練り、導き出した答えの一つがタコ山だった。
北九州市にタコの遊具が誕生したのは1970年。小倉北区の勝山公園と若松区の今光東公園にお目見えし、半世紀が過ぎた今も地域の住民らに親しまれている。
子どもたちがはしゃぐ様子を見た大人の口コミで、巨大タコの評判はどんどん広がった。海のそば、山の麓、住宅街へと”増殖”を続け、北九州市内11か所に。市の担当者は「一つの都市にこれほどの数のタコの遊具があるのは珍しいのでは」と話す。
タコの遊具が”主”のように鎮座する公園は、北九州市内の7区すべてにあり、それぞれの地域では正式名称よりむしろ「タコ公園」などの愛称で呼ばれている。
遊具の色彩も豊かだ。ゆであがったように真っ赤なもの、ピンク、青など様々で、中にはねじり鉢巻きを締めた姿も見られる。
愛される公園の”主”に
その中でも門司区の和布刈(めかり)公園にあるタコの遊具は、国内最大級のスケールを誇る。高さ約6メートル、幅約20メートル。名産の「関門海峡たこ」をイメージして2010年に設置され、海峡を見下ろす公園で抜群の存在感を示している。
地面に伸びる8本の脚には階段なども設けられ、どこから”攻略”しようかと迷ってしまう。ちなみに制作費は約4000万円だったという。なめらかな曲線を描く巨体は今にも動き出しそうで、夜中にこっそり海に帰るのでは――と想像をつい膨らませた。
鉢巻きを締めたタコがいるのは、高台の住宅地にある戸畑区の大谷6号公園。7歳と2歳の子どもたちと一緒に、かくれんぼをして遊んでいた同区の会社員・清水悠里さん(29)は「子どもにせがまれて来ました。長男は放課後などに週4回はここで遊んでいるようです」と笑顔を見せた。
日没間際に訪れた戸畑区の新堤公園。住宅街にある広場では子どもたちが野球に夢中になり、タコの遊具で「ボール鬼ごっこ」に興じるグループもいた。鬼役が軟式テニスのボールを当て、当てられた人は交代で鬼になるというルール。大きなタコの体が身を隠す場所をつくったり、盾になったりもする。
ここで幼い頃から遊んで育った小学5年の羽口楓真(ふうま)君(11)は「学校にはないタイプの遊び場。家の近くにこの公園があってよかった」と息を切らせながら話してくれた。
職人技が詰まった作品
巨大なタコの遊具は、どの業者にでも制作できるものではないそうで、東京の前田環境美術という会社が中心になって手がけてきた。鉄筋をベースにコンクリートを打ち、その上からモルタルを塗り上げていく。すべて手作業で、引き継がれてきた職人の技が凝縮された”作品”だ。
今回、訪ねたそれぞれの公園で、楽しい出会いがあった。各地の個性的なタコの姿を写真に収めていると、ご朱印を集めながらタコの聖地を巡礼しているような気分も味わえた。公園の新しい楽しみ方を見つけられた小旅行だった。