福岡市内のあちこちに! 子どもたちに大人気の「カメ公園」
記事 INDEX
- なぜカメなのか?
- みんなが笑顔に!
- 時代は変わっても
北九州市にはタコの形の大きな遊具が設置された「タコ公園」が多く、福岡市内にはたくさんの「カメ公園」がある――。そんな話を耳にした。北九州市の「タコ」については調べたことがあるのだが、福岡市はなぜ「カメ」なのか? あれこれ想像しながら、市内のカメ公園を巡ってみた。
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なぜカメなのか?
北九州市には、タコ公園が7区すべての計11か所にある。門司区の関門海峡そばには日本最大級のものがあり、観光客にも人気の存在となっている。一方の福岡市は、カメの遊具が10体ほど点在しているようだ。
福岡市の担当者に聞くと、その多くは1970年前後に造られたものだという。福岡市が政令指定都市になる頃で、新しい公園が次々と整備されていた。今でこそ遊具の製作は業者に外注しているが、当時は市の職員が現地調査や設計を担っていたそうだ。
「残念ながら半世紀前の図面や記録はなく、なぜカメなのか、どの公園で最初にできたのかは分かりません」と担当者。そのうえで「公園のシンボルとして初期に登場したカメの遊具が好評だったのでしょう。その図面を引き継ぐような形で、類似の遊具が市内各地に広がっていったのでは」と推測する。
福岡市内には1700あまりの公園がある。カメの甲羅のような半球状の遊具や、石を組み合わせたイシガメらしきもの、すでに撤去された公園もあり、どれだけのカメの遊具が現役で活躍しているのか、正確には把握していないという。
複数の場所で目にしたカメが、同じ図面を基に誕生したであろうことは、甲羅に埋め込まれた鎖や土管などの配置からもうかがえた。頂上部に立つ潜水艦の潜望鏡のようなものや、背後にある滑り台もそうだ。とはいえ、カメの表情、甲羅の色や模様はそれぞれに個性があり、一つとして同じものはない。
みんなが笑顔に!
中央区天神に近い春吉公園のカメは、塗り直されて間もないからか、カラフルでひときわ目立っていた。博多区から母親と訪れた園児は、土管の中で友だちと一緒にお菓子を食べ、ご機嫌のようだ。耳をそばだてると、「楽しいね。ここに住まない?」「こんな丸いところに!お風呂もないよ」。2人の元気な笑い声が聞こえてきた。
児童たちが歓声を上げて駆け回っていたのは、西区の上山門公園だ。ほぼ毎日、ここで遊んでいるという小学2年の男児は「知らないお兄ちゃんともすぐ仲良くなり、カメの遊具でかくれんぼをしたり、誰がてっぺんに一番早く登れるか競争したりしています」と、息を弾ませながら話してくれた。
早良区の紅葉八幡宮のそばにある紅葉山公園。近くには、人工衛星を模したジャングルジムもある。アポロ11号が月面着陸に成功した1969年は、遊具ができた時期に重なる。「宇宙への当時の高い関心が、遊具にも反映されたのでしょう」と市の担当者は話す。
東区の三苫公園は、道を挟んだ松林の先に玄界灘の砂浜が広がっている。巨大な遊具は、ウミガメが産卵のために陸にあがってきたような配置だ。冬休み中の児童たちが、寒さに負けず鬼ごっこに夢中になっていた。心なしかカメの表情も楽しそうだ。
福岡空港に近く、飛行機が頭上をかすめる東区の郷口公園。JR福北ゆたか線の列車が間近に見える遊具には、筥松小学校の児童らが2000年に描いた海の生き物の絵が残っていた。
年月を重ねたせいだろう、砂場にある遊具の中には甲羅がひび割れたものもいくつか見られた。福岡市では年1回、各公園の遊具を点検・補修している。安全基準が厳しくなっている今、老朽化が進んだものは、撤去を含む再整備の対象になるという。
時代は変わっても
中央区の小笹南公園。ここにも大きなカメの遊具があったが、公園の再整備を機に1997年頃に撤去された。それでも地元では、今も「カメ公園」と呼ばれている。公園に面した通りで「カメ公園坂通り」と記された新しい看板を見つけることもできた。
現在、公園に残るカメの遊具は子ども1人が乗れるほどの2体のみ。この小さなカメが公園の愛称を背負い、未来に引き継いでいこうと踏ん張っているようにも見えた。
昭和の郷愁が漂う遊具の中で、目を引いたのは中央区の一本木公園にあるカメ。公園の"主"の老朽化が進んだことから、2023年に再整備が検討された。カメ公園と親しまれてきた憩いの場。「残すのが難しければ、形を変えてでも、公園のシンボルになるようなカメの遊具を造ってほしい」との声が地域から上がった。住民らとの話し合いを経て、カメをモチーフにした複合遊具へと生まれ変わった。
南区の清水南公園にあるカメも、やはり地域の声に応えるように2011年、”今どき"の遊具へと姿を変え、以前と変わらず地域で愛されている。
古き良き時代の“遺物“が少しずつ姿を消し、「カメ公園」のバトンを引き継ぐ”新たな顔”が誕生する。安全基準を満たし、令和の時代にふさわしいカメの遊具は、充実した機能と洗練されたデザインで子どもたちに人気だ。
とはいえ、秘密基地で遊んだ思い出とも重なる「昭和生まれのカメ」たちは、おじさん世代を今もひきつける魅力がある。もしも自分が子どもの頃に戻ったなら、間違いなく色あせたカメに向かって駆け出すだろう――と思った。