森の中で、森のことを考える 糸島市にあるカフェ「緑の詩」
安心の野菜も人気
約15ヘクタールの山林の中に、子どもたちが農業体験をできる施設やカフェをつくった夫婦。コロナ禍で来訪者が減った時期もあったが、年間約10万人が訪れる人気スポットになった。
そもそもの出発点は、12年前にたまたま目にしたテレビ番組だという。
高齢になった夫婦が、山を購入して畑を耕し、第二の人生を謳歌(おうか)するストーリー。「これだっ! 」。山での生活に可能性を感じた前田さん。すぐに知り合いに連絡を取り、以前に話を聞いていたこの山を下見する日程を調整した。そして「農業と食をベースに人が集まる場所にしたい」と、山林を買い取ることを決意した。
ところが、いざ野菜を作ろうとすると、長く放置されている間に、山は竹やぶに支配されていることが分かった。地下茎でつながっている竹。切っても切っても増殖は止まらない。
当時、糸島市でラーメン店を運営していた前田さん。18時から翌3時までの営業を終えて山へ向かい、車で寝泊まりしながら、のこぎりを手に奮闘した。「そりゃ、もう尋常じゃなかったですよ。コンクリートの道路以外は全部、竹でしたから」
想像以上の困難に直面し、時には涙を流しながら竹と格闘すること1年半――。竹やぶの中に、かつての田んぼの跡を見つけ、念願の野菜栽培に光が差した。
「白糸の森」の畑では、農薬はもちろん動物性の堆肥(たいひ)も使わない。ふんの中に外来種のタネなどが交じっている可能性があるからだ。農業未経験ながら、地元の人たちの協力も得て、完全オーガニックの野菜畑を作り上げた。2018年には、うどん店「白糸うどん やすじ」をオープンした。
今では1シーズンに40~50種類もの野菜を育て、うどん店で提供したり、加工して販売したりするまでになった。
店では「本日の野菜天盛うどん」(950円)が人気。当日採れた野菜を中心に約10種類の天ぷらが楽しめる。
取材を終え、森を去る時は夕暮れ間近に。自分が今いるこの”空間”をそのまま持って帰りたいと思い、後ろ髪を引かれつつ、胸いっぱいに山の空気を吸い込んだ。