森の中で、森のことを考える 糸島市にあるカフェ「緑の詩」
記事 INDEX
- 山への問題意識を
- SNSで一気に注目
- 安心の野菜も人気
福岡県糸島市の観光名所「白糸の滝」へと向かう途中に、体験型観光農園「白糸の森」が広がっている。そこにある「森のカフェ 緑の詩(おと)」は、「360度の木々に囲まれてお茶を楽しめる不思議な空間」とSNSなどで海外からも注目されている。
山への問題意識を
福岡市内から車で50分ほど。農園の入り口に立つのは、地元の杉で作った「糸島七座」のオブジェだ。近隣にある七つの山(井原山、雷山、羽金山、二丈岳、女岳、浮岳、十坊山)がモチーフで、やさしい表情をしたモアイ像のようにも見える。
農園を始めたのは、前田和子さん(67)と大串幸男さん(66)の夫婦。「いらっしゃい」と、満面の笑みで迎えてくれた。
園には、緑の中で森林浴ができる「森のカフェ」と、糸島市街地を見渡せる「畑のカフェ」の二つのエリアがある。人気は「森」のエリアで、ここでの楽しみ方には独特な”ルール”がある。
まずは飲み物などを注文し、60脚ある椅子の中から気に入った一つを携えて森の中へ。「ここで過ごしたい」と決めた場所に椅子を置いたあと、注文した品を受け取りに戻るという具合だ。
緑の空間で、腰を下ろして一息つく。春のそよ風に乗ってきたのか、遠く鳥のさえずりが聞こえる。木々の間から漏れる光が心地いい。しばらくのんびりしていたい、そう思える場所だ。
なぜ森の中にカフェを開いたのだろう? 一級建築士でもある大串さんに尋ねた。「SNS映えを求めて」。そんな言葉を予想していたら、意外な答えが返ってきた。
山への問題意識を持ってほしい――という思いからスタートしたのだという。
40年ほど前に植えられた木が、間伐されずに放置されてきた。その結果、「見ての通り、細い木ばかりになってしまった。こうなると、もう建築の素材としても使えません」。樹齢の長い木は二酸化炭素の吸収量が減り、若い樹木の生育も難しい。
外国産材の流入、林業従事者の不足――。木々にじかに触れて、森が直面する問題を知ってもらい、これからを語り合いたい。そうした思いを実現する場として、森の中にツリーデッキを作ることを思い立ったという。
すると、森の現状について現地で説明を受けた人たちから「ゆっくりと木々に癒やされながら、森の問題を考えられるカフェを開いてみては」という提案や要望が寄せられたそうだ。そうした声に背中を押され、2021年にカフェを開いた。