亡き妻の思いを継いで「チョウの庭」 糸島の男性が自宅開放

フジバカマなどが植わった庭で、亡き妻への思いを語る長岡さん

 福岡県糸島市の男性が自宅の庭で、チョウを呼び寄せる「バタフライガーデン」づくりに取り組んでいる。「旅するチョウ」として知られるアサギマダラの再来を願いながら72歳で急逝した妻の思いを継ぎ、季節の草花21種類を植えている。愛好家らにも庭を開放しており、男性は「チョウが飛び交う庭で、多くの人に和んでもらいたい」と来場を呼びかけている。

アサギマダラの再来を願い

 「今年も(チョウが)来てくれるかなとの思いで、大事に手入れを続けている」

 5月12日、糸島市二丈鹿家の古民家の庭を訪ねると、長岡秀世さん(73)がこう言って、アサギマダラが好んで蜜を吸う植物「フジバカマ」を見つめていた。

 脊振山系の十坊(とんぼ)山の麓にある古民家では1996年から、妻の順子(よりこ)さんと、県内の作家の焼き物や手芸品などを展示するギャラリーを営んできた。順子さんは草花が好きで、庭には季節の花木や山野草を植えて、2人で手入れをしていた。


長岡順子さん


 亡くなる約1か月前の2021年10月。順子さんは「羽に何か書いてある」と言って、飛来した1匹のアサギマダラをつまみ、自宅の中にいた長岡さんの元に駆け寄った。羽には「白山 9/13 KA32」の文字があり、紙に書き取ると、順子さんは「また来てね」と言って庭に放した。

 アサギマダラは、薄い藍色の美しい羽が特徴で、日本列島を春に北上し、秋に南下するとされる。飛行経路を解明するため、全国各地の団体や有志が、羽に油性ペンで印をつけて放すマーキング調査を行っている。

 専門家らに問い合わせた結果、長岡さんらが見つけたアサギマダラは、石川県の白山麓で放たれたものだと判明。長岡さん夫婦は、再来を楽しみにしていた。しかし、順子さんは同年11月、急性心筋梗塞(こうそく)で倒れ、帰らぬ人となった。

季節の草花21種類を植える

 失意の中、庭先で長岡さんがフジバカマに水やりをしていると、頭上を1匹のアサギマダラが、何度も旋回した。「思わず、『お帰り』と叫んだ。家内が語りかけてくれているようだった」。涙が止まらなかった。

 昨年8月になって、雑誌でチョウが集う庭づくりの特集記事を目にした。「妻の思いをかなえたい」。長岡さんは、そんな一心でフジバカマなどの草花を植え始めた。

 すると、同10月中旬には、生前に順子さんがアサギマダラを見つけた草花の近くにアサギマダラが飛来した。チョウが来ても遺影から見えるようにしようと、前日に障子を開けたばかりだった。「奇跡としか思えなかった」と振り返る。


昨年10月に庭に飛来したアサギマダラ(長岡さん提供)


 ギャラリーは閉じ、昨秋からは、「チョウを愛する人」というラテン語に由来する「オーレリアン 樹庵」として庭を無料開放している。フジバカマや、ボタンクサギなど21種類320株を植えており、長岡さんは「多くのチョウが飛来し、自然を愛する人も集まることが出来る空間にしたい」と話している。

 来訪などの問い合わせは、オーレリアン 樹庵(092-326-5336)へ。


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