本好きたちが愛読書を持ち寄る「糸島の顔がみえる本屋さん」がオープン
記事 INDEX
- 「交流の場に」移住者が企画
- 近隣のオーナーが交代で店番
- 知らない本に出会える魅力
本好きな人たちが書籍を持ち寄って、共同運営する書店が9月、福岡県糸島市の商店街にオープンしました。東京から移住した2人が始め、本棚の一区画を借りた「オーナー」が好きな本を並べて販売。全国的に書店が減る中での新しい試みで、訪れた人たちの交流が生まれ、商店街のにぎわい復活につながることも期待されています。
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「交流の場に」移住者が企画
30センチ四方に区切られた壁面の本棚。約100枠には、歴史書や子ども向けの絵本、外国の書籍だけでなく、オーナー自らの著作も並びます。販売する本にオーナーそれぞれの個性が表れることから、書店は「糸島の顔がみえる本屋さん」と名付けられました。
出店を企画したのは、東京から糸島へ移住した中村真紀さん。東京で物流会社の社長を務めていた中村さんは、友人が住んでいたことをきっかけに2016年に糸島を旅行。都市部に近いのに自然が豊かで住みやすいことに魅力を感じ、昨年に移り住みました。「糸島の人たちと交流する場所をつくりたい」と考えたとき、思いついたのが子どもの頃から好きだった書店でした。
ただ、糸島で経営コンサルタントなどの仕事を始めたため一人では時間の余裕がなく、書店を開けるような物件も見つかりませんでした。一度は諦めたものの、今年4月、JR筑前前原駅前にある商店街の空き店舗を活用できることになり、再び動き出しました。
東京にある同様の書店を参考に、同じ移住者で糸島で学生寮を運営する大堂良太さんに協力を呼びかけました。クラウドファンディングで約120万円の資金を集め、オーナーを募って9月4日の開店にこぎ着けました。
近隣のオーナーが交代で店番
近隣に住むオーナーは月1回程度の店番をします。中村さんは「店番を分担すれば、運営の負担を軽減できます」と説明。オーナーは居住地などに応じて月に1500~4000円の出店費用を支払いますが、店番をするオーナーは費用が安くなります。
オーナーは地元住民のほか、東京や京都、北海道などの約100人で、ほぼすべての棚が埋まりました。オーナーは本の販売価格を決め、1冊売れるごとに手数料50円を店に納めます。棚にメッセージカードを置く人もおり、客との交流が生まれます。
オーナーの一人で福岡市西区に住む九州大文学部3年の岡祐里さんは、子どもの頃から読んでいた小説約20冊を本棚に並べました。コロナ禍で大学に通うことが少なく、「新しい人との出会いがあれば」と参加。9月27日に店番を務めると、来店客と本棚を見ながら好きな本について語り合えたといいます。「店番をしながらつながりを実感できました。本を通じていろんな人と交流してみたい」と笑顔です。
知らない本に出会える魅力
全国的に書店の数は減り続けています。民間調査会社「アルメディア」によると、2000年の約2万1000店から、20年には約1万1000店とほぼ半減しました。インターネット販売の拡大に押されていますが、中村さんは「書店に足を運んで知らない本に出会えるのは、ネットにない魅力」と力を込めます。
都市部の近くにありながら、海などの自然やおしゃれなカフェがあり、近年は観光客でにぎわう糸島ですが、中心商店街はシャッターを閉めた店舗が目立ちます。中村さんは「本をきっかけにどんな交流が生まれるか楽しみ。多くの人に足を運んでもらい、商店街のにぎわいにつながればうれしい」と話しています。
(写真:久保敏郎)
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