4畳半に詰め込んだ自己主張 九大生が前原商店街で営む書店
記事 INDEX
- 本棚で人となりが分かる
- 「この店のお薦めの本を」
- 独創的な古着も並ぶ店内
福岡県糸島市の中心部にある前原商店街。通りに並ぶ建物の2階に昨春オープンした4畳半の小さな書店「ALL BOOKS CONSIDERED(オール・ブックス・コンシダード)」が、知る人ぞ知る一風変わった店として注目されている。
本棚で人となりが分かる
店長は宮崎市出身で、九州大学共創学部2年の中田健太郎さん(19)。同じ学部の本や古着が好きな友人4人で共同経営し、学業とアルバイトなどに配慮しながら、交代で店番を行っている。
本が好きな中田さん。「本棚を見れば、人となりが分かるのが面白い」と話す。宮崎市での高校時代に通った個人経営の書店に影響を受けたそうだ。店主が独自の視点で選んだ個性的な本が棚に並ぶ様子がとても刺激的だった。店主の”自己主張”が伝わり、本棚を見ているだけでワクワクしたという。
九州大に進学後、本好きな人たちが書籍を持ち寄って、共同運営する書店が糸島市にオープンするのを知った。本棚の一区画を間借りして最大80人のオーナーが好きな本を販売する「糸島の顔がみえる本屋さん(通称・糸かお)」だ。
さっそく参加した中田さん。しかし30センチ四方の棚に並べることができるのは「せいぜい7、8冊程度」。物足りなさを感じ始めていた頃、「糸かお」の2階の一室を利用できることが分かった。「糸かお」を”卒業”して、新たに店を開いた。
まもなく1年を迎える書店。多い日は20人ほどが訪れるが、来客ゼロの日もある。収支を尋ねると、店の賃料や書籍代を差し引いたら「利益はほぼ出ない」という。
それでも、お金では計れない、かけがえのないものを得ていると胸を張る。
当初は「こちらがベストだと思うことをやれば、おのずと数字もついてくると思っていた」と中田さん。店を続けるための計画と実行、そして反省を繰り返すうち、経営は決して理論ではなく、「やってみて初めて分かる」ということが身に染みた。
「この店のお薦めの本を」
4畳半という限られた空間が、この店独自の持ち味でもある。「この距離感で互いに無言は気まずいし、つらい」。必然的に会話が生まれる。
「こういう本があったよ」「これは面白かったな」――。客のほとんどは年長者。人生経験はもちろん、読書量も豊富な”先輩”たちの話は、書籍や経営の話題に限らず、哲学、さらに生き方に及ぶ。長いときは1、2時間、話し込むこともあるという。
「ここで挑戦していなかったら、できなかったことばかり」と成果を振り返る。
本棚には仲間たちと選んだジャンルを超えた約300冊が並ぶ。大型書店ではおそらく扱っていないタイトルも。例えば、慶応大学に通う知り合いが日々を書き留めた「キドの日記」。限定6部の販売で、日々の様子が赤裸々につづられている。
どんな基準で棚に本を並べているのだろう?
その答えは「読んだ後に考えが揺さぶられる本」。あまり関心のないテーマでも、考えることを促し、掘り下げてみると面白さに気付かせてくれるような本だという。
そうした考えにひかれてなのか、「この店お薦めの本を読みたい」と県外から訪れる客もいるそうだ。「お薦め」を尋ねる来訪者には、興味のあることやこれまでの読書歴を確かめてから答える。
「ド直球で選ぶべきか、普段読まない本をあえて挙げるべきか。『どちらがいいですか』と質問に質問を返すのは保険をかけているみたいでダサい」と、ともに運営に携わる斎藤楓季(ふうき)さん(21)は言う。「空気を察しながらの勝負。こういう緊張感も面白いし、ピースにはまってくれたらうれしい」
独創的な古着も並ぶ店内
狭い店内にはリメイクした独創的な古着も並ぶ。コーヒーの麻袋を使ってデザインしたり、スカートのすそにTシャツを縫い付けて作ったり――。
あまり注目されないような本や、新奇な古着を並べた店内。「伝わるかどうかは別として、自己主張したいという思いは、本と古着が同居しているからこそ、よりアピールできる」と中田さんは話す。
私にはどんな本を選んでくれるのだろうか、最後に聞いてみた。自分の趣味、学生時代に海外を旅してきたことなどを補足して話す。
「じゃあ……」と選んでくれたのは、花森安治さんの「灯をともす言葉」という本だった。ここを目指して来る客の7割は、薦められた本を購入して帰るという。
しばらくページをめくってみる。そうか、学生の目からはこういった本が私に合っていると映るのか。自分の意外な一面に向き合ったような気がした。