どんな命でも救いたい! 動物園出身の獣医師が診療所を開設

開設した診療所で猫の治療について飼い主と話す外平さん(奥)
記事 INDEX
- シートンに憧れて
- CF活用、糸島市に
- 人と動物の共存へ
動物園で様々な生き物を診察した経験を生かし、フリーランスの獣医師として訪問診療に取り組む北九州市小倉北区の外平友佳理さん(54)が、福岡県糸島市に診療所を開設した。クラウドファンディング(CF)などで集めた資金で整備し、動物施設の獣医師らが実際の治療や手術に触れながら実践的に学べる拠点としても活用されている。
シートンに憧れて
外平さんは北九州市出身。小学生の頃、「シートン動物記」を読み、動物学者に憧れた。高校生の時、自宅に羽が折れた野鳥のツグミが迷い込んだ。動物病院に運び込んだが、「犬と猫しか診ない」と診察を断られ、翌日に死んでしまった。
「どんな命でも救える獣医師になりたい」との思いから、宮崎大農学部獣医学科に進学。動物病院での勤務などを経て、小倉北区の動物園「到津の森公園」で18年間、獣医師として勤務した。担当した動物は、ゾウ、キリン、トラ、チンパンジー、カメなど全80種類に上る。
様々な症状に対応し、子どもたちと動物がふれあうイベントを開催するなど、やりがいのある職場だった。だが、同園での主な業務は病気の予防。病気で苦しむ動物や飼い主を少しでも多く助けたいという目標とは、ずれがあった。
CF活用、糸島市に
2019年8月に退職し、フリーでの活動を始めた。九州を中心に動物施設や個人宅でヤギ、ミニブタ、ハリネズミ、カエルなど幅広い種類の動物を往診した。飼育する動物に対応できる獣医師が少なく、困り果てた飼い主からの依頼や相談に応じてきた。
ただ、往診では1日3、4軒の訪問が限界で、多くの相談に対応するために診療所の開設を決めた。知人の紹介で、JR筑肥線・大入駅(糸島市二丈福井)近くに2階建ての住宅を借りた。CFで協力を呼びかけると約860万円が集まり、借入金と合わせて資金を確保。2024年8月、敷地の一角に、レントゲン室や手術台を備えるプレハブの診療所を構えた。
診療所ではこれまで、卵を産めなくなったインコやニワトリ、乳腺に腫瘍ができた犬や猫を診察。レントゲン撮影や超音波検査、血液検査ができるようになり、迅速な診断と処置が可能になったという。手術の際には、治療の機会が少ない動物施設の獣医師に参加を呼びかけ、敷地の住宅部分は、獣医学を学ぶ学生や飼育員らが研修を行う場として利用されている。
人と動物の共存へ
命の大切さを知ってもらおうと講演活動にも力を入れる。24年12月には糸島市立長糸小の4年生13人に動物園での経験を語り、「どんな生き物も、心を込めて世話をしたら通じ合えて、仲良くなれる」と伝えた。
訪問診療も続けており、診療所での対応は完全予約制。外平さんは「ゆくゆくは野生動物のレスキューセンター、犬や猫と一緒に暮らせる施設をつくり、人と動物と自然が共存できる場所にしたい」と夢を描く。
診療に関する問い合わせは外平さん(090-4992-0798)へ。