ジブリの世界へ! 芥屋の大門公園にある「糸島トトロの森」
記事 INDEX
- 小さな"穴"から冒険へ
- 映画で見た景色の中で
- すてきな出会いに感謝
♪すてきな冒険はじまる――。そんな予感に心躍る森が福岡県糸島市にある。玄界灘に面した「芥屋(けや)の大門(おおと)公園」の小高い丘。展望台へ続く180メートルほどの道のりが、スタジオジブリ制作のアニメ映画「となりのトトロ」のワンシーンにそっくりだとSNSで話題に。いつしか「糸島トトロの森」として存在が知られ、海外からの観光客も訪れるようになった。
小さな"穴"から冒険へ
福岡市から車で1時間ほど。糸島市も予期しないような人気スポットに駆け上がった海沿いの森に出かけてみた。
福岡都市圏にありながら、豊かな自然と開放感を満喫できる場所として人気が高まり、2023年度に観光客数が700万人を超えた糸島市。芥屋の大門公園にあるヤブツバキに囲まれた小道が注目され始めたのは、コロナ禍の前後からという。
公園には、日本三大玄武洞の一つとして知られる芥屋の大門がある。糸島市によると、大門や玄界灘が見渡せる丘の上には2000年、展望台や階段が整備された。バス停も設置された駐車場から森の入り口がある海の方へと向かう。
大祖神社を左手に見ながら進むと、青空の下に鳥居が見えた。鳥居の上にはたくさんの小石が置かれている。こちらもインスタ映えスポットとして人気のようだ。
その鳥居に向かって左に位置する、こんもりとした緑――。ここが糸島トトロの森だ。木々に埋もれるように開いた小さな”穴”から、身をかがめて森に入っていく人の背中が見えた。
映画で見た景色の中で
足を踏み入れると、入り口の狭さとは対照的に頭上の空間は広く、木々で覆われた細いトンネルが先まで続いている。「たしかに似ている」――。映画の中で、トトロを追って森を駆け回る女の子の姿を重ね合わせた。
階段の先に展望台の方向を示す矢印が見えた。木々の合間から頂上付近の青空が見え、少しほっとする。展望台の下には、順番待ちの列ができており、少し待って上ってみると、玄界灘の荒波を進む漁船や、芥屋の大門の独特な地形が見渡せた。
階段を下り、今度は「黒磯海岸」と書かれた方向に進む。こちらは人影も少ない。途中、木々に囲まれた1畳ほどのスペースに、ベンチがポツンと置かれていた。その狭いエリアが、一つのアート作品のような不思議な空間に感じられた。
ベンチに腰を下ろして目を閉じる。汗ばんだ肌に、海からの風が心地よい。耳を澄ますと、激しく打ち寄せる波の音、そして潮風が運ぶ鳥のさえずりが聞こえた。
海辺まで下りてみると、写真で見た北海道・知床の海岸のような壮大な光景が広がっていた。奥には日本最大級の玄武岩洞がある芥屋の大門が迫る。マグマが海水で冷やされて収縮する際に、六角柱や八角柱の形状に固まったそうだ。
大小の岩が転がる海岸で、激しい波風に負けずに力強く咲く小さな花を見つけた。整った形の花びらが特徴的なダルマギク。条件の悪い場所に咲いた可憐(かれん)な花が、「よく来たね」とねぎらってくれているようで、ほっこりした気持ちになった。
すてきな出会いに感謝
再びトトロの森へ、来た道を戻る。幼い頃に空想した「秘密の場所」のような緑豊かな土地。訪れる人に、安らぎとともに不思議な懐かしさを与えてくれることも、人気の背景にあるのだろう。
光のシャワーが降り注ぐような幻想的な異空間。この場所を、写真でどう表現しようか――。空を見上げ、スローシャッターで、ゆっくりとカメラを回して、不思議な広がりを演出してみた。
笑顔が印象的な夫婦に出会い、声をかけた。山口県から訪れた関本優衣さん(37)は、幼い頃から「となりのトトロ」が大好きで、ここへ来るのは2度目だという。「小さなトトロを追いかけてメイが森の中に入っていく時の気持ちを想像しながら歩きました。トトロ好きにはたまらない場所ですね」
小道の雰囲気をしばらく楽しんでいると、トトロならぬ、白い猫が現れた。海外からの観光客らが笑顔でスマートフォンのカメラを向ける。気がつくと、猫は森の中に消えていた。
緑のトンネル、力強く咲くダルマギク、そして白い猫――。映画のような「不思議な出会い」とまではいかなかったが、いくつかの温かい巡り会いに恵まれて、心が軽くなる晩秋の一日だった。