キセキの連続で話題に 糸島市の神在神社そばにある「神石」
記事 INDEX
- 林に守られた巨石
- 人気漫画で聖地に
- 宝くじが大当たり
福岡県糸島市の里山に鎮座する神在(かみあり)神社は、境内のそばに「神石」と呼ばれる巨大な石がある。この石は、人気漫画のワンシーンのモデルになったのではと話題になったり、近くの宝くじ売り場から驚きの大当たりが出たり――と周辺で様々な”想定外”が起こり、パワースポットとして脚光を浴びている。
林に守られた巨石
魏志倭人伝に登場する「伊都国」があった地として知られる糸島市。神在神社が造られたのは572年で、大伴連狭手彦(むらじさでひこ)が、新羅遠征の成功と渡海の安全を祈願するために建立したのが始まりとされる。
地域に長く伝わる祭り「千灯篭(とうろう)祭」が行われる9月1日、神在神社にお参りしたあと、神石を訪ねた。
神石は、神社の裏手の林を歩いて300メートルほどの場所にある。案内板に従って進んでいくと、細い道の先にこつぜんと姿を現した。外周約16メートル、高さおよそ5メートル。木々に囲まれたその石は、圧倒されるような存在感を放っていた。
参拝者らが歩いて地面が踏み固められたのだろうか、神石を囲むように”道”ができている。見上げると木々の間から青空が見え、まるでこの周辺だけが何かによって守られているかのようだ。
石の”正面”と思われる場所に立つと説明板があり、「両手を大きく広げ、鼻から約10秒息を吸い込み、パワーを授かり……」とお参りの方法を記している。木の葉が風に揺れる音がかすかに聞こえる心地よい空間。さっそく一礼し、両手を広げて、大きく息を吸ってみる。
目を閉じて、その場にしばらくたたずんだ。だが、邪念に支配されているせいか、残念ながら私には大きな変化は感じられなかった。
人気漫画で聖地に
神社総代の馬田学さん(83)によると、周辺はかつて小高い山だったという。昭和30年頃、ミカンを栽培するため開墾していたところ、土に埋もれた巨石が見つかった。周辺からは、勾玉(まがたま)のようなものも出土したという。
そのミカン畑もいつしか廃れ、竹が生い茂る林の中に、巨石も隠れるようになっていたそうだ。数十年の間、そのままの状態が続き、巨石の存在を知る人は地元でもほとんどいなくなった。
「体が動くうちに、きちんとお祭りしよう」。2016年、馬田さんは地主の了解を得て、地元区長会の仲間らと竹を伐採し、神社から続く道を整備した。しめ縄を掛け、案内板を立てるとテレビなどで紹介され、参拝者がぽつぽつと現れるようになった。
2019年頃、漫画「鬼滅の刃」が大ヒットし、社会的ブームになった。そのとき、馬田さんにとって一つ目の”想定外”が起こる。
作品では、修業中の主人公が巨石を切り裂くシーンが登場する。その巨石が「神在神社の神石にそっくり。モデルになったのでは」とSNSなどで話題に。木々に囲まれた様子や、しめ縄が掛かっている点も符合し、登場人物と同じ格好をした子どもや若者たちが訪れる”聖地”になった。
宝くじが大当たり
そして迎えた今年1月、新たな”想定外”で地域は沸いた。神在地区にある宝くじ売り場で「ロト7」の1等10億円が出たのだ。神社や神石が再び、パワースポットとして注目を集めた。「国内だけでなく、世界中から老若男女が訪れるようになりました」と馬田さん。熱心な人は2回、3回と参拝を重ねるそうだ。
噂(うわさ)を耳にしていた藤原美鈴さん(53)はこの日、福岡市内から訪れ、姉妹で神石の前に立った。「こんなに大きな丸い石が林の中にあるなんて、神秘的ですね」と話し、両手を広げて深呼吸したあと、瞳を閉じて神石にそっと手を添えた。
千灯篭祭では、神社の参道に300個ほどの明かりが並んだ。よく見ると、アニメや人物、風景など、地元の子どもやお年寄りが描いた絵で彩られている。個性豊かで見て楽しく、日が落ちると周囲を幻想的に演出した。
境内では、子どもたちが笛や太鼓の演奏を披露した。かなりの練習を重ねたのだろう、期待を超える見事な腕前だ。観衆から惜しみない拍手が送られ、普段は静かな里山がにぎわいを見せた。
目の前の千灯篭祭の様子が、古里の神社の夏祭りの光景と重なった。忘れかけていた遠い夏の記憶と、楽しかった幼少期の思い出がよみがえった。