「ダンダダン」オープニング曲の鳥居かも?添田町の伊勢神社
記事 INDEX
- SNSでにわかに注目
- 往時のにぎわいは…
- 時間の流れとともに
福岡県添田町から東峰村に向かう途中、大藪峠にある伊勢神社が、知る人ぞ知るスポットとして、ひそかな話題になっている。苔(こけ)に覆われ、中央部で二つに割れた鳥居が立ち、SNSでは「異世界に放り出された気分」といった投稿が連なる。人気アニメに登場する鳥居のモデルでは――との声が神社への関心を高めているようだ。
SNSでにわかに注目
伊勢神社がある添田町は、霊峰・英彦山の修験道の地として知られ、多くの神社仏閣が残る。町の文化財専門官・岩本教之さん(64)によると、町の古い神社などが登場するTikTokが1年ほど前から話題になっているという。
人気アニメ「ダンダダン」のオープニング曲で、伊勢神社のものとよく似た鳥居の画像が流れることから、ファンの注目を集めるようになったらしい。
神社の歩みを調べてみた。1959年(昭和34年)発行の添田町誌によると、1692年(元禄5年)に創建された神社であることが分かった。
添田町と旧小石原村を結ぶ街道の集落だった大藪地区。50年ほど前までは、中元寺小学校の分校が置かれていたとの記録が残る。集落奥にあった伊勢神社は、「地主神として地域の人に手厚くまつられていたようです」と岩本さん。かつて住民が祭りを開いたのだろうか、鳥居の前には数十人が集まれるスペースがあった。
往時のにぎわいは…
現在、神社の周辺で、生活の気配を見つけるのは難しい。一帯では、深い草木に覆われた無人の住居跡が散見される。しばらくの時間、ここに滞在したが誰にも会うことはなく、往時のにぎわいをうかがうことはできなかった。
杉林に立つ神社は、中元寺川によってお堀のように囲まれ、境内の上を木々の葉が覆っている。視線を足元に移すと、イチョウやカエデの落ち葉がカーペットのように広がり、歩を進めると靴が深く沈んだ。
時折、木々の合間を通り抜ける陽光が、神々しい光の柱をつくっていた。長い歳月をかけて成長した緑の苔が、過ぎし日々の重みを伝えている。
人の手による建物さえも、自然の一部としてのみ込んだかのような不思議な空間。時間の”深み”を感じながら、苔のある部分をできるだけ避けて神殿への階段を上る。
神殿にはお酒や小銭が置かれていた。静かに手を合わせて目を閉じると、周囲の音に聴覚がいっそう研ぎ澄まされる。川のせせらぎが静寂を支配し、時折、上空を進む飛行機の音が耳に届いた。
時間の流れとともに
階段を下り、鳥居の周囲をよく見ると、苔に覆われた細長い石らしきものが不自然に横たわっていることに気づく。鳥居を構成する貫(ぬき)と呼ばれる部材のようだ。額束と思われる石も柱に寄り添うように置かれていた。
鳥居の割れ目にはクモの巣が張り、落ち葉が数枚かかっているのが見えた。岩本さんは何度か神社を訪れたものの、鳥居が割れていることには気づかなかったそうだ。「自然劣化によるものと思います。これを直して元の形にすることはないでしょう」
「アニメに登場する絵はここをモチーフにしたのでしょう」と岩本さんは続けた。「ダンダダン」を放送する毎日放送(大阪市)に伊勢神社のことを尋ねると、「特定の場所を意図して制作しておらず、本件について言及は避けさせていただければ」という答えが返ってきた。かすかな期待は裏切られたが、その方が作品の世界に没入できそうだ――と思い直した。
アニメの第1期放送は12月19日で終わり、2025年7月から第2期がスタートする予定とのことだ。