福岡市の水道事業100年 大渇水を教訓に「節水」の都市づくり

「水道水がぶ飲みタレント」と自称し、福岡市の水事業をPRする中島さん(動画の一場面)

記事 INDEX

  • 給水1日5時間の記憶
  • ナカジーが情報発信
  • 節水の歩みを今後へ
  • 水道企業団は50周年

 福岡市の水道事業が今年で創設100年を迎えました。政令市で唯一、市域内に一級河川がなく、大渇水の経験から「節水型」の都市づくりを進めてきた福岡。100年の節目に、地元の人気タレント・中島浩二さん(57)(通称・ナカジー)を水道局の公式アンバサダーに任命し、水の大切さを伝えるイベントなどを開いています。

給水1日5時間の記憶

 福岡市・天神の商業施設「ソラリアプラザ」で市水道局が6月上旬に開いた水の大切さを考えるイベント。進行役の中島さんが促すと、かつて給食の調理施設に勤めていた三好恵美子さん(72)が、1978年の大渇水当時の苦労を語りました。

 「大変でした。冷凍ほうれん草など水で洗わなくてよい野菜や切り身の魚などを材料にしたり、調理がいらないバナナやフルーツゼリーを提供したり……」


体験を語る三好さん(左から2人目)。中島さん(右端)が進行役を務めた


 この大渇水では、79年にかけて287日間もの給水制限が行われ、特に水不足が深刻だった78年6月1~10日には1日に5時間しか水道の水が出ませんでした。市は6月1日を「節水の日」と定め、水の大切さを考える催しを続けています。


湖底がひび割れた南畑ダムの写真など、大渇水の様子を伝える展示も


 今回のイベントでは、福岡県朝倉市や久留米市などを流れる筑後川から、福岡市が受水していることも紹介。この受水は83年から実施され、現在は福岡市で使用する水の約3分の1を筑後川に頼っています。


 大渇水を経験していない世代の一人として登壇した九州大工学部4年、山下淳平さん(22)は「水をもらっている筑後川流域へ、感謝の思いを持つことも大事」と強調。イベント後、「大渇水を経験した方の話を聞いたり、水源地のことを知ったりすることは、若い世代にも大切だと改めて感じました」と振り返りました。

ナカジーが情報発信


イベントで水の大切さなどを発信する中島さん(右)


 客席には「ナカジーがいるから来ました」という女性も。中島さんはこうした人気に加え、かねて「蛇口から水をゴクゴク飲んでいる」と公言していることから、市水道局がPRへの協力を打診。今年3月から、公式アンバサダーを務めています。


 ラジオのパーソナリティーなどを務め、発信力に定評がある中島さん。イベントでも、なめらかな語り口で「政令指定都市では1日1人240リットルの水を使っているが、福岡市は200リットルと、(市民らが)40リットルも節約している」といった水に関する様々な話題を紹介しました。


福岡市の漏水率の低さなどを紹介(動画の一場面)


 市が6月以降に公開した動画にも出演し、「世界一、漏水率が低い」「水質検査は、国が定める51項目にとどまらず、市独自に追加して200項目も行っている」といった情報を伝えています。動画は、市の「福岡チャンネル」で見られます。中島さんは今後も、イベント出演などを通して、水の大切さなどのPRに取り組むそうです。



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節水の歩みを今後へ

 福岡市の水道事業は1923(大正12)年3月、曲渕ダム(早良区)や平尾浄水場(中央区、現・福岡市植物園)など一連の施設が完成し、給水を始めたことに遡ります。当時の給水人口は約3万5000人でしたが、今や160万市民の暮らしを支えています。

 78年と94年の2度の大渇水を経験し、節水型の都市づくりに取り組んできました。ダム開発や筑後川からの導水に加え、公共施設のトイレに初めて下水の再生水を活用したり、民家も含めて蛇口に節水コマの導入を進めたりと、水を大切にする仕組みが随所にあります。2003年には全国で初めて、節水推進条例を施行しました。


「飲む海水」。パッケージでは「3本買うと苗木1本に」という取り組みも紹介(右)


 05年には、国内最大規模の海水淡水化施設「海の中道奈多海水淡水化センター」(愛称:まみずピア)が稼働。同施設は1日最大約5万立方メートルを供給しています。市水道局はアルミボトルの「飲む海水」(490ミリ・リットル入り、税込み140円)としても販売し、売り上げのうち1本あたり100円を水源地の森の保全に充てています。


 また、同局では、大渇水の記憶をつないでいこうと近年、ホームページ内で市民から寄せられた体験談を公開。今後も「節水型都市づくり」の歩みを進めながら、「持続可能な水道事業の構築に取り組みたい」としています。

水道企業団は50周年

 近隣自治体と連携した取り組みも。8月1~7日の「水の週間」には、福岡市を含む17市町でつくる福岡都市圏広域行政事業組合がキャンペーンを展開。筑後川の恵みで育った「福岡有明のり」やチラシの配布を通じ、水源地・流域への感謝や節水を呼びかけます。


17市町で配布するチラシ(提供:福岡都市圏広域行政事業組合)


 また、福岡市や周辺など6市7町1企業団1事務組合でつくる「福岡地区水道企業団」も1973年6月の設立から50年を迎え、記念事業に取り組んでいます。


設立50周年の記念ポスター(提供:福岡地区水道企業団)


 水をエネルギーに戦うヒーロー「アイアンキング」を起用した記念ポスターを公民館などに掲示。特設サイトでこれまでの歩みや、記念イベントを紹介しています。イベントは、初企画した8月の浄水場見学などのバスツアーに定員の8倍の応募があるなど好評。9月も水をテーマにしたワークショップを開催予定です。


 水源地への感謝を伝える試みも。「ありがとうの森プロジェクト」と銘打って、9月末まで市民らから水源地への感謝のメッセージをウェブで寄せてもらい、その件数と同じ数の苗木を10月、メッセージとともに贈る計画です。同企業団は幅広い参加を呼びかけています。


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