夫婦で半世紀続けた柳川の純喫茶 新オーナーが引き継いで再出発

店自慢のオリジナルブレンドを提供する児島さん

記事 INDEX

  • 最高の一杯を楽しめる空間
  • 事業承継サイトで人材探し
  • "らしさ"を加え歴史を紡ぐ

 福岡県柳川市に、半世紀近く営業してきた純喫茶があります。店には自家焙煎(ばいせん)のコーヒーの香りが漂い、レトロな内装は常連客に愛されてきました。高齢のオーナーが昨年引退して1度は閉店したものの、新しいオーナーに事業を承継して3月21日に再出発しました。新オーナーの児島聡さん(42)は「常連さんにも認められるよう頑張っていきたい」と話しています。

最高の一杯を楽しめる空間

 店は西鉄柳川駅の近くにあるコンクリート造りの建物1階にあります。1973年、北島敏秋さん(74)が「珈琲廊 ゴンシャン」として創業しました。店の名前には、地元の言葉で「お嬢さん」という意味があり、柳川出身の詩人・北原白秋の詩の一節にも登場するそうです。

 50平方メートルほどの店内には、カウンターやテーブル約30席が並びます。コーヒーの香りとともに、モーツァルトやショパン、ボレロなど落ち着きのあるクラシックが流れていました。


重厚感のある家具や調度品が並ぶ店内

 テーブルや椅子はオーダーメイドによる大川家具です。リラックスした時間を過ごしてもらおうと、客同士の目線が合わないように椅子の背もたれを高くするなど、北島さんのこだわりが詰まっています。


落ち着いてコーヒーを楽しめるように設計された空間

 テーブル席と7人掛けのカウンターはガラス窓で仕切られています。カウンターの背後を彩るステンドグラスからは、柔らかな光が差し込みます。

 カウンターの上にあるのは、こだわりのサイホン。香りが引き立ち、味わい深い一杯を楽しめ、「やっぱりコーヒーはいい香りがしないと」と北島さんは話します。


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事業承継サイトで人材探し


フラスコから注ぐコーヒー。湯気と一緒に香りが広がる

 コーヒー一筋に半世紀。夫婦で店を切り盛りしてきましたが、コロナ禍による休業や、北島さんの体調などもあり、営業に終止符を打つことを決意。昨年9月末、惜しまれながら閉店しました。


コーヒーの味はもちろん、店の雰囲気にもこだわった北島さん

 守り続けてきた店と味を誰かに引き継ぎたい――。そんな北島さんの思いをくんだ家族が事業承継のマッチングサイトに登録し、後継者探しが始まります。10月に募集を始めると50人以上から問い合わせがあり、面接などを経て後継ぎが決まりました。

"らしさ"を加え歴史を紡ぐ


北島さんからエプロンを引き継いだ児島さん(左)

 店名を「Classic珈琲 ゴンシャン」として迎えた再オープン。「指導をいただきながら、50年の歴史を引き継いでいきたい」と決意を語る児島さんに、北島さんからエプロンが贈られました。

 児島さんは飲食業界で15年以上働き、料亭やレストランの調理場で腕を磨いてきました。柳川への移住を検討しているとき、ゴンシャンのことを知ったそうです。焙煎技術をはじめ北島さんからコーヒーのすべてを学ぶとともに、これまでの経験を生かしてワッフルやホットサンドといった軽食もメニューに加えていく考えです。


カウンターに立つ児島さん(左)。しばらくの間、北島さんが焙煎技術などを伝授する

 「彼が継いでくれて、ここの雰囲気があと半世紀くらいは守られるんじゃないかな」。カウンターに立つ児島さんを見守りながら、北島さんは安心した様子です。


タイミングが合えばハープ演奏を聴けるかも


 新生ゴンシャンでは、児島さんの妻・祐子さん(42)も店を手伝います。祐子さんはハープ奏者で、普段は自宅などで教室を開いています。店では、接客が落ち着いたタイミングで祐子さんがアイリッシュハープを奏でます。北島さんは「店の雰囲気にとても合っている」と生演奏を聴くのを楽しみにしています。


コーヒーを手にゆっくりとした時間を過ごせる

 ネクタイとワイシャツ姿の児島さんは「店の一つひとつのものに重みがあり、歴史が詰まっている」と話し、北島さん直伝のブレンドコーヒーをいれてくれました。

 「北島さんの味を守りながら、自分が経験してきたことも少しずつブレンドしていきたい」。老舗喫茶の時計の針がまた動き出しました。

「Classic珈琲 ゴンシャン」
所在地:福岡県柳川市三橋町下百町12-2
営業時間:10:00~19:00(木曜定休)



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