プラネタリウムがあるお寺 福岡市城南区の菩提寺に行ってきた
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福岡市城南区梅林に、とても個性的なお寺があります。本格仕様のプラネタリウムを備え、漫画家・松本零士さん描き下ろしの仏画、鮮やかなステンドグラスなど、寺のイメージからはほど遠い設備や装飾が随所にあります。なぜ、これほどまでにエンターテインメント性が高いのでしょうか。話を聞くと、納得のわけがありました。
本格的なプラネタリウム
訪ねたのは、油山の麓にある「浄土真宗本願寺派 菩提寺」。2001年にできた新しい寺で、外観も現代的です。住職の椿信二さんに寺を案内してもらいました。
別館にあたる「安穏堂」に設けられた「星室」が、プラネタリウムの部屋です。中央に投映機が置かれ、周囲にリクライニングチェアが並んでいます。最大40人を収容できるそう。天井は直径8メートルのドーム型で、ここに星空が映し出されます。
上映してもらうと、音響もしっかりしていて迫力満点です。いすの座り心地も良く、寺にいることを忘れそうになります。新型コロナウイルス感染防止のため現在は中止していますが、普段は誰でも鑑賞できる上映会を月1回ほど開き、法事を終えた家族らの要望にも応えているそうです。「命」をテーマにしたプログラムを多く用意し、上映後は椿さんによる法話も行っています。
メーテルの絵やステンドグラスも圧巻
菩提寺には様々な絵画も飾られています。目立つのは松本零士さんの作品で、星室にも『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『宇宙戦艦ヤマト』など10枚以上が掛けられています。ひときわ目を引くのは、『銀河鉄道999』に登場するメーテルのふすま絵です。法事などを行う部屋にあり、ふすま4枚分の大きさです。
ふすま絵の隣にある『二河白道』は、人が迷いを断って阿弥陀仏に導かれる様子を描いた仏画です。この絵は松本さんが菩提寺のために描き下ろしたもので、阿弥陀仏の代わりにメーテルが描かれています。
もう一つの別館「同朋会館」の仏壇には、阿弥陀仏と極楽浄土の六鳥が描かれたステンドグラスがあり、光が差すと幻想的な雰囲気になります。葬儀を行うことも多いそうで、椿さんは「阿弥陀様に包まれているような安心感があり、利用者に好評です」と教えてくれました。
ステンドグラスの横に目を向けると、壁一面の絵画があります。福岡県久留米市出身の画家・吉武弘樹さんの作品『輪廻転生』で、圧倒的なスケールに思わず見入ってしまいました。
誰でも足を運んでほしい
住職の椿さんは、大学で理系の学部に進み、大学講師や警察官を経て仏門に入ったという少し変わった経歴の持ち主です。多くの人が持つ「お寺」のイメージを覆すような寺をなぜ作ったのか、話を聞きました。
――僧侶になったきっかけを教えてください。
警察官をしていた1990年頃、京都駅で僧侶を養成する専門機関のポスターを目にしたことです。そこには「賢くなることを 教える世の中に 自分の愚かさを 気付かせる教えこそ 人間の道である」と書いてありました。この言葉にとてもひかれ、通信教育で仏教の勉強を始めました。平日は勤務、日曜はお勤めの練習という日々が続きましたね。
――その頃から住職になろうと思っていたのですか?
当時はまったく思っていませんでした。しかし、住職をしていた妻の父が、私が仏教を勉強していることを知り「手伝わないか」と誘ってくれました。最初は断ったのですが、義父の「明性寺」(福岡市早良区野芥)の分院として、菩提寺に入寺しました。
――なぜプラネタリウムやステンドグラスを?
多くの人に足を運んでほしいからです。門徒でなくても、誰でもです。プラネタリウムや松本零士さんの絵を置くことで、「寺」の固定概念を覆して親しみを持ってほしいと考えました。ステンドグラスは、雰囲気を明るくするためです。葬式は暗いものというイメージがありますが、見送る側も見送られる側も、少しでも前向きな気持ちになってほしいのです。
――なぜ多くの人に足を運んでほしいのですか?
寺は本来、人が集まる場所です。昔は悩み事を話したり、たわいもない会話をしたりして心の拠り所にしている人が多かった。そういう人は減りましたが、社会が複雑化し、いろいろな問題がある現代だからこそ、胸の内にある言葉を「傾聴」してもらえる場所が必要だと思います。
――深い理由があったのですね。
そうなんです。一見すると寺とは関係ないようですが、『銀河鉄道999』にある「限られた命を生きるから生はすばらしい」というメッセージと、宇宙の起源に思いをはせるプラネタリウムは、「命について考える」という点で共通しています。寺本来の存在意義を残しながら時代に合わせて変化し、多くの人が足を運んでくれる寺にしていきたいです。