アートの力で地域おこし! 飯塚に「ナマズタハウス」が完成

築90年の古民家がカラフルなナマズタハウスに

記事 INDEX

  • 創作人生で一番の大作
  • ワクワクする気持ちを
  • 宝探しを楽しみながら

 福岡県飯塚市鯰田地区にある築90年の空き家が、丸ごとアート作品の「ナマズタハウス」に生まれ変わり、このほど完成を迎えた。手がけたのは、近くに自宅兼ギャラリーを構える鉄の芸術家・そのだ正治さん(65)だ。

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創作人生で一番の大作

 「身近でアートに触れられる場に」と設けた原色が鮮やかなスペースは、作品を展示するだけではなく、見て触って楽しめる体験型の空間になっている。そのださんの取り組みの背景には、「芸術家として地域の活性化に役立ちたい。鯰田をアートのまちにしたい」という長年の思いがあるようだ。


空き家時代の天井の一部も生かしたギャラリー


 そのださんは、鉄のオブジェを制作して筑豊のあちらこちらに設置している。飯塚市の中心商店街にある「ハートのねこ」や、田川市の石炭記念公園の「百年の鐘」、田川伊田駅のホームにある「幸せの青い鳥」など多くの作品を生み出してきた。


飯塚市中心部にある「ハートのねこ」


 異彩を放つ作品群の中で「創作人生で一番の大作」と胸を張るのが、約1年をかけて完成させたナマズタハウス。「梁の高さが異なり、建物を支える柱も傾いている」という廃墟をなぜ、アート作品としてよみがえらせようとしたのだろうか。


坂を上った場所にあるナマズタハウス


 きっかけとなったのは、コロナ禍前、展示会を開くために訪れた香川県・直島で目にした光景だ。芸術の島として知られる小さな島には、世界中から多くの人が訪れていた。家を丸ごとアート作品にしたような展示会場まで島民らボランティアが道案内するなど、島全体がアートで一体になっていると感じた。


不思議な絵画が壁を彩る


 島の風土や景観と結びついた作品を、美術館ではなく島民の生活空間で楽しめる。「自分を育ててくれた鯰田が、こうした雰囲気になればきっと面白いに違いない」――。アートが地域おこしにつながると確信した。


作品の先にJR福北ゆたか線の列車が見えた


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ワクワクする気持ちを

 思いを募らせていたところ、空き家となっている物件が鯰田地区にあることを耳にした。温めている構想を持ち主に伝えると、「好きなように使ってください」と譲ってくれた。


ツタで覆われた古民家(上、そのださん提供)と改修後の姿


 10年ほど誰も住んでいなかった古民家。「雨漏りがひどくて、床が抜け、天井も一部が落ちていました」。まずはニワトリ小屋の解体から手を付けた。屋根や外壁を覆うツタを取り除き、家財道具を整理して、床や壁を「鉄のアートな空間」へと改造していった。


大改造(左、そのださん提供)を経て、アートギャラリーへ


 建物の改修費や作品の制作費は、クラウドファンディングで支援を募った。福岡県内を中心に65人から計350万円あまりが寄せられ、ギャラリーのほか、屋外テラスやショップも備えたナマズタハウスが1月初めに完成した。


鉄を切断して創作に取り組むそのださん


 猫が好きで自宅でも飼っており、「つい作品にも登場させてしまう」と笑う。ハウスの狭い裏庭の行き止まりにも、巨大な猫のオブジェ――。「楽しい思い、ワクワクする気持ちを表現すれば、多くの人の心を揺さぶってくれるはず」と、そのださん。そんな思いが伝わる作品が随所に見られる。


裏庭への扉を開けると大きな猫の顔が


 フェルメールの「真珠の耳飾りの女」を模した作品は、猫の耳がチャーミングでインスタ映えすると人気だ。屋外に取り付けた扉を開けると、「ネコかぶり黒ぞう」という絵画が現れるトリックアートのような作品も裏庭に潜んでいる。


「真珠の耳飾りの女」を模した絵を前に、笑顔のそのださん


 "そのだワールド"が全開のナマズタハウス。雲の合間から光が差すと、原色を組み合わせたカラフルな壁や床に、オブジェの影が映し出され、不思議な抽象模様を描いた。これ自体が自然の恵みを巧みに生かした作品のようでもあった。


壁の原色と、オブジェの影がアートな空間を演出していた



宝探しを楽しみながら

 「最寄り駅で降りたときから、アートを楽しみながら散策できるようなまちにしたい」という思いから、ハウスの徒歩圏内にも作品がちりばめられている。疫神社の門扉にあるオブジェ、公民館の置物やバス停に置かれたアートな椅子――。ちょっとした宝探しのように、訪れた人が見つけては楽しむことができる。


疫神社に掲げられた「疫病払いの鬼さん」


 同じものを目にしても、人によって抱くイメージや感想が異なるように、「アートの楽しみ方に正解はなく、人それぞれの楽しみ方がある」と話す。カメラマンの自分はどのように向き合えるだろうか。ハウスでもらった地図を頼りに、街なかに潜むアートスポットを探し歩いてみた。


浦田公民館前の「だいこくさん」


 どのレンズを使うか、背景のボケはどの程度にするか、ベストのアングルはどこか――。その時の光の条件や、通りかかった人との出会いに、一期一会を感じながらカメラを構える。


猫の瞳の先に広がる鯰田地区


 "見所を切り取る力"を試されているようにも感じた散策のひととき。目の前の作品から「何か」がにじみ出てくるように、「はっ」と心動かされる瞬間に気づく。次第に片意地張らずに、自分だけの美を発見し、感じればいいのだ――と考えるようにもなった。こうした向き合い方も、自分なりのアートの楽しみ方のような気がした。


デッキの柱の周囲にも、そのだワールドが



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